最新記事

貿易戦争

米中貿易戦争:中国のLNG関税で米エネルギー産業に打撃

Trump’s Trade War With China Could Hit Energy Exports

2018年9月25日(火)16時00分
キース・ジョンソン

シェールガス掘削のためのリグで働くペンシルバニアの労働者 Tim Shaffer-REUTERS

<エスカレートする米中貿易戦争のなかで新たなターゲットにされた米国産LNGへの報復関税で、中国需要を当て込んでいた米業界の投資は冷え込み、他の産出国にパイを奪われる>

米中貿易戦争は既にアメリカの農業と製造業に打撃をもたらしているが、次は好況に沸くエネルギー業界の番だ。

米中貿易戦争は9月24日、にわかにエスカレートした。トランプ政権は新たに2000億ドル相当の中国製品に対する関税を発動。中国もすぐさま600億ドル相当の米国製品を対象に報復関税を発動した。中国によるこれまでの報復関税は大豆などを対象としていたが、今回は米国産の液化天然ガス(LNG)に10%の追加関税を課すなど、初めてエネルギー部門を標的にした。

これは、シェールガス革命により天然ガスや原油の一大産出国となった米エネルギー業界に打撃をもたらしかねない。中国の報復関税のせいで、米国産LNGは世界2位のLNG輸入国である中国向けの価格が値上がりし、競争力が低下する。

中国はその分、アメリカ以外の国からのエネルギー輸入を増やすだろうと専門家は指摘する。ロシアは既に中国とシベリアを結ぶ大規模な天然ガスパイプラインを建設している。9月12日に新たなパイプラインの建設計画も発表しており、完成すれば両国の天然ガスの取引量は倍増する見通しだ。

成長を阻む要因に

長期的な影響も懸念される。最も重要な天然ガス市場の一つである中国市場へのアクセスが事実上制限されることで、アメリカが計画中の天然ガス輸出プロジェクトは縮小を迫られる可能性もある。現在提案されているプロジェクトの多くは、中国からの大量の需要を前提としたものだからだ。

コロンビア大学グローバルエネルギー政策所の所長でバラク・オバマ前大統領のエネルギー問題担当顧問だったジェイソン・ボードフは「これらの関税と貿易戦争のエスカレートは、米国産LNGの成長を阻む深刻な要因になる」と考えている。

アメリカがLNGを大量に輸出し始めたのは2016年になってからで、中国はメキシコと韓国に次ぐ3番目の輸出先だ。大気汚染対策として石炭の使用量削減を目指す中国は天然ガスの輸入量を増やしている。今後さらに多くの天然ガス(とりわけ「格安」の米国産天然ガス)を輸入するだろうという期待が、米天然ガス業界を下支えしてきた。

それが中国市場に期待できないとなれば、投資の見込みも立たなくなりかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案、西側首脳が修正要求 トランプ氏は

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中