最新記事

スペイン

カタルーニャ「独立」は第2のスペイン内戦を呼ぶか

2017年10月2日(月)20時15分
ジェームズ・バドコック

「違憲」の住民投票を阻止するため投票所になだれ込む警官隊(10月1日、スペインのサン・ホリア・デ・ラミス) Juan Medina-REUTERS

<カタルーニャの独立をめぐるスペイン中央政府との対立は、もはや交渉で解決可能なレベルではなさそうだ>

スペイン中央政府とカタルーニャ州政府は過去5年間、カタルーニャの独立をめぐり対立してきた。住民投票の間もその後も、互いに一歩も引かない構えだ。

カタルーニャ州政府は、住民投票を違憲とするスペイン政府の反対を押し切って、10月1日に独立の是非を問う住民投票を行った。カルレス・プッチダモン州首相は同日夜、同州は独立国家となる権利を獲得したと宣言。一方では、投票を阻止しようとする警官隊と住民が衝突。州政府によると住民400人以上が負傷した。カタルーニャ側は、「賛成」多数となれば48時間以内にも独立を宣言するとしている。

中央政府はこれまで、カタルーニャが自治拡大への話し合いを求めても「ノー」の一点張りだったが、今や実力行使も辞さない構えだ。警察は、住民投票を力づくで阻止しようとした。すでに9月20日には、警察が州政府機関を家宅捜索し、住民投票の準備をしていた州政府関係者ら14人を逮捕した。従来は、取り締まりといってもポスターや投票用紙、投票箱の押収などに限られていたので、次第に強権化しているのは明らかだ。

独立阻止のため、中央政府がカタルーニャにどれほど圧力をかけるつもりかは分からない。中央政府は広範な法的拘束力を好きなように行使できる。自治権停止を定めた憲法の条項を引き合いに、実質的にカタルーニャ州政府を無力化することもできるのだ。

軍隊の投入が必要?

だがプッチダモン州首相率いる州政府を力ずくで抑え込むためには、軍隊の投入が必要になるだろう。中央政府の政治家たちは伝統的に、国内で軍隊を使うことには消極的だ。第二次大戦前、選挙で選ばれた左派「人民戦線」とフランコ将軍率いる反乱軍が戦い殺し合った「スペイン内戦」の悪夢を想起させるからだ。

もし国民に銃を向ければ、カタルーニャ州のみならずスペイン全土で中央政府は信を失う可能性もある。スペイン国民の多くは、中央政府とカタルーニャ州の分断を深めた元凶は、中央政府で保守与党を率いるマリアノ・ラホイ首相の強硬姿勢だと見ている。9月20日に中央政府の警察が州政府官庁を捜索したとき、数万人規模の住民が州政府官庁を取り囲んで抗議したことからも、中央政府に対する反発が危険水準まで高まっていることが分かる。
 
「もし中央政府の最終手段が武力行使なら、我々は勝ったも同然だ」とカタルーニャ州政府のホルディ・トゥルル報道官は言う。

カタルーニャ州では2014年にも独立の是非を問う「非公式」の住民投票を実施している。当時のアルトゥル・マス州首相は、憲法裁の差し止め命令に反して住民投票を強行して以降、公職追放の身だ。まったく同じことが、住民投票の新たな州法に署名したプッチダモンや州政府職員に起きないとは限らない。それでも州政府は、州政府に指図できるのは州議会を通じたカタルーニャ州民の民意だけだとして、中央政府によるいかなる決定も無視すると言っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

メルセデス、中国パートナーとの提携に投資継続 「戦

ビジネス

日経平均は大幅反落800円超安、前日の上昇をほぼ帳

ビジネス

焦点:国内生保、24年度の円債は「純投資」目線に 

ビジネス

ソフトバンク、9月30日時点の株主に1対10の株式
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中