最新記事

テクノロジー

ビットコイン大国を目指すスイスの挑戦

2017年7月29日(土)11時20分
ソニア・ジュラブリョーワ

乱用防止のために、ビットコインの全取引は暗号化され、ブロックチェーンと呼ばれるデータベースに登録される。要するに共有された取引台帳だ。誰かが何かを買うのにビットコインを使うと、ブロックチェーンはその取引をブロックと呼ばれる連続性のあるコードを使って記録する。

データベースの更新はビットコインソフトを作動させているネットワーク全体で行われ、全ての人のビットコイン保有高について公式の記録が作成される。ハッカーが記録を改ざんすることは不可能だ。

技術応用への期待と課題

この技術は銀行業務以外にも多くの用途に応用できる可能性がある。ブロックチェーンは安全で簡単にアクセス可能な場所に記録を保管するデータベースとして利用が可能だ。

例えばデンマークの海運会社マースクでは、この技術を貨物の追跡に役立てている。同社によれば、東アフリカからヨーロッパにコンテナ1つを輸送するのに現状では最大30人の証印や承認が必要で、目的地に到着するまでに200以上のやりとりを経る場合がある。しかしブロックチェーンを活用すれば書類を減らして手続きを迅速化させ、数百万ドルのコストを削減できる可能性がある。

HSBC証券やドイツ銀行をはじめとする世界の90以上の銀行も、ブロックチェーン技術の潜在的可能性を探っている。

【参考記事】「次のインターネット」、噂のブロックチェーンって何?

投資ファンドのサンタンデール・イノベンチャーズによれば、この技術で取引や帳簿作成業務を効率化させることで、銀行業界は22年までに年間最大200億ドルを節約できる可能性がある。起業家のフェルドマイヤーも、「反復作業の多い財務関係の業務を自動化するシステムの開発にブロックチェーン技術が役立つだろう」と言う。

ブロックチェーンの普及が進めば、当局はその安全性と信頼性を確保する規制を急がねばならない。「こうしたシステムには大きな利点があるが、多くの脆弱性もある」と警告するのはハーバード・ビジネススクールのカリム・ラカニ教授だ。

しかしツークでは、そんな警鐘もどこ吹く風。かつてのインターネットのように、この技術は人々の生活を一変させるだろうと、多くの人が信じている。

「この技術をもっと活用していく方法を、私たち自身が生み出していかなければいけない」とフェルドマイヤーは言う。「業界全体で協力して、数多くの障壁を克服していく必要がある。ツークでは町全体が私たちの仲間になり、今では私たちの意見に耳を貸してくれる」

小さな町で始まった大きな実験は、やがて国境を超えて世界に広がっていくことだろう。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年8月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米政権、適用間近のAI半導体輸出規制強化策を撤廃・

ワールド

ブラジル中銀が0.5%利上げ、今後の政策見通し示さ

ワールド

メキシコ、インフレが予想通り鈍化なら追加利下げ可能

ビジネス

ウクライナ、「参照通貨」をドルからユーロに切り替え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中