最新記事

台湾半導体

「敗者の日本」に学ぶ、台湾半導体の過当競争からの「出口戦略」とは?

LESSONS FROM JAPAN

2022年12月2日(金)15時14分
ゲイリー・シェ、ソフィー・グラント(ともに北京大学の客員研究員)
ソニーのトランジスタ工場

ソニーのトランジスタ工場(1960年) AP/AFLO

<絶好調に見える台湾半導体が、価格競争に走るのは短期的には有利。しかし、長期的には他国とのイノベーション競争に晒される。台湾が取るべき道は戦後日本の「垂直統合強化」だけ>

台湾の半導体産業は一見したところ、大いに成功している。

台湾積体電路製造(TSMC)が、世界の半導体受託製造(ファウンドリ)市場に占めるシェアは53.4%だ。次点のサムスン電子(韓国)が16.5%だから、圧倒的な強さと言えるだろう。それでも、今後も世界の半導体市場で競争力を維持し続けるためには、大掛かりな業界再編が必要となる。

そこで参考になるのが、日本の経験だ。旧通産省は1971年、日本にはコンピューターメーカーが多すぎて、米IBMが前年に発売したメインフレーム「システム/370」に対抗できないと考えた。そこで既存の6社を日立製作所と富士通、NECと東芝、そして三菱電機と沖電気の3チームにまとめることにした。

国内メーカー間の競争を抑えれば、それぞれの市場支配力が高まり、もっと研究開発に投資できるようになると考えたのだ。その背景には、過当競争に対する懸念があった。

第2次大戦後の日本の高度成長の方向性を定める上で、「過当競争」の概念は重要な役割を果たした。市場経済に健全な競争は不可欠だが、国内メーカーが世界市場で過度にシェアを奪い合うと、アメリカやイギリスのメーカー(それぞれ国内に競合他社がさほど多くない)よりも一貫して利益率が低くなることに通産省は気が付いた。

そこで通産省は50年代、繊維産業に介入して競争を抑制し始めた。ライバルが多すぎると不要な価格競争が生じて、利益率が下がり、研究開発投資が難しくなると考えたのだ。後に通産省は、エレクトロニクスや自動車といった資本集約型産業にも介入して競争の抑制を図った。

具体的には、特定の技術目標で企業間連携を推し進め、中小企業を大規模な系列に組み入れさせた。このように過当競争を防いでイノベーションを刺激するアプローチは、日本の産業政策の中心的戦略になった。

日本の戦後の過当競争が懸念された状況は、現在台湾の半導体産業が直面している状況とよく似ている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中