最新記事
農業

アフリカの若者たちが挑む「食の正義」運動とは?...20代主導で進む「都市型農業」の可能性

More Than Fresh Produce

2025年3月25日(火)13時44分
ティナーシェ・カノスバムヒラ(ケープタウン大学アフリカ都市研究センター研究員)
市民農園を設立して有機農業を実践するアフリカの若者たち

市民農園を設立して有機農業を実践するアフリカの若者たち。こうした農園には作物以外にも多くの「収穫」が期待できる KUPICOO/GETTY IMAGES

<新鮮で健康的な食料が平等に手に入る社会を目指し、若手が挑む「自給自足」のニューウエーブ>

都市農業にはいろいろな形態がある。地域農園や学校菜園、屋上庭園、商用都市農場、水耕栽培、水産養殖と水耕栽培を組み合わせたアクアポニックスなど多種多様な方法で、持続可能な都市づくりを促す取り組みが行われてきた。

これらは小規模な農業イニシアチブによって地域の食料安全保障を拡張し、経済的チャンスを育み、協力・学習する共有スペースを生み出して社会的結束も強化する。


だが、アフリカ諸国の一部などでは農業を志す若者はごくわずか。ケニア、エチオピア、ナイジェリアなどの調査によれば、15~34歳の世代は農業にほとんど関心がない。きつい、稼げない、カッコ悪いというイメージや、土地やリソースやスキルが得られにくいといった制度的な障壁のせいだ。

黒人が多いサブサハラの中で、南アフリカは他の地域よりは若者の就農率が24%と高い。それでも若い世代が就農のメリットをもっと理解し、支援が拡大されれば、就農率はさらに上がるはずだ。

ケープタウン近郊の旧黒人居住区カイェリトシャは、住民約40万人の大部分が黒人で収入も低い。筆者は若者主導の2つの農園でインタビュー調査を実施

1つ目の農園のメンバーは2人、2つ目の農園は6人、全員が22~27歳だった。彼らは野菜の栽培以外にも、社会的な関係を育み、ビジネスチャンスをつくり、環境保護を促進していた。

若者主導の都市農業は変革の可能性を秘めていて、都市の抱える問題に多面的に対処する方法になり得る。政策立案者は若者主導の都市農業の価値を認識し、その種の取り組みを支援するべきだ。

1つ目の農園は2020年1月、新型コロナのパンデミック直前に、失業や食料不足など地域の問題を解消するべく設立された。メンバーも含めて雇用を創出し、病気や障害などを抱える子供たちなど弱者を栄養面で支援することを目指した。

2つ目の農園は14年設立。共同設立者は幼なじみ3人で、彼らの1人が畑作業の好きな祖母に触発されたことでプロジェクトが始まった。有機農業の促進、健康的な食習慣の啓発、自給自足のコミュニティーづくりも目指したという。

newsweekjp20250325020806-9863db19461449a3c55d79b747b9bc212fcf8b14.jpg

市民農園は協力と啓発の場にもなり得る WIRESTOCK/GETTY IMAGES

インタビューした若者たちは皆「食の正義」を求めて活動していた。食の正義とは、特に疎外されたコミュニティーにおいて、食料の生産・流通・入手の制度的な格差を是正し、栄養豊富で文化的に適切な食料を誰もが入手できるようにすることを指す。

1つ目の農園は約30の栽培床を設けて、ビーツ、ニンジン、ホウレンソウ、カボチャ、ジャガイモ、ラディッシュ、サヤエンドウ、レタス、ハーブなどを栽培。毎月収穫量の30%を地元のコミュニティーに寄付し、学校や病院と提携して健康的な食事と持続可能な慣行も促進している。

2つ目の農園も、コミュニティーへの食料供給と食の正義運動に重点を置いている。

社会との関係が「資本」

これらの農園はメンバーのスキル開発も支援。メンバーは農園を運営し、成長を計画しながら、持続可能な農業、マーケティング、起業についての実用的知識も習得する。

実際に体験すれば責任感が生まれ、将来のキャリアや起業に応用できる貴重なスキルが身に付く。2つ目の農園の設立者は、スキルのおかげで政府の介入を待たずに地元のコミュニティーに協力を求めることができると語った。

彼の場合は、幼児教育施設の経営者と交渉して所有地を利用させてもらえることになったという。

社会とのつながりは農園の成功に必要不可欠だ。

ネットワーク内のつながりが密接なボンディング(結束型)ソーシャルキャピタルや、コミュニティーの枠を越えたブリッジング(橋渡し型)ソーシャルキャピタルは、市民農園と市民社会の組織との関係強化を可能にし、リソースの動員も可能にしてきた。

市民農園はコミュニティーの回復力も培う。メンバーは健康的な食生活、持続可能な農業、環境保全について啓発するワークショップやイベントを主催している。収穫した作物を地元の幼児教育施設に寄付すれば、最も必要としている人々に届けられる。

適切な支援も不可欠だ

協力の拡大も成功のカギとなってきた。2つ目の農園はスローフード・ユースネットワーク(Slow Food Youth Network)のようなグローバルな組織やネットワークと協力し、持続可能な農業に関する知識を共有・習得してきた。

これら2つの農園のように、若者主導の農業イニシアチブに対する的を絞った支援が必要だ。政策や財政的な支援があれば、こうした若者たちは取り組みを拡大できる。その結果、より多くの食料を地元に供給し、さらに雇用を創出し、より多くの若者に権限を与えることが可能になる。

政策レベルでは、政府は行政サービスが不十分なコミュニティーを中心に都市農業プロジェクトのための土地利用を優先するべきだろう。都市は都市農業計画に含まれているスペースを若者のイニシアチブを促進する環境づくりに割り当てられる。

持続可能な都市農業のメリットを強調する啓発プログラムや、起業と持続可能な農業の技術に関するワークショップやトレーニングも必要だ。コミュニティーの組織化で若い就農者の権限を強化することもできる。

国内や国際的な食料ネットワークとの継続的な協力も、そうしたイニシアチブの強化に役立つだろう。

The Conversation

Tinashe P. Kanosvamhira, Post-doctoral researcher, African Centre for Cities, University of Cape Town

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 トランプのイラン攻撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月10号(3月3日発売)は「トランプのイラン攻撃」特集。核・ミサイル開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。アメリカとイランの全面戦争は始まるのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 6
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 9
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中