最新記事

スポーツ

フィギュア5回転ジャンプ...物理的「限界」への挑戦と、「芸術性」軽視の批判

An Impossible Dream?

2022年3月2日(水)17時10分
マディ・ベンダー(科学ジャーナリスト)
羽生結弦

羽生は北京五輪のフリーでクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑戦した CATHERINE IVILL/GETTY IMAGES

<フィギュアの求道者・羽生結弦でも北京冬季五輪では4回転半の成功ならず。その一歩先の5回転ジャンプは物理的・身体的限界への挑戦となる>

惜しかった。羽生結弦は北京五輪のフィギュアスケートで前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑戦し、片足で着氷したものの転倒した。回転不足と判定されたが、技としては初めて「4回転半」と認定された。

現時点で、スケートを履いた人類が成功させた最高のジャンプは、5種類の4回転(トウループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツ)のみ。もう半回転加えたクワッドアクセルを、羽生は公式戦で初めて跳んだ。だが、世界の羽生でさえ成功には至らなかった。試合後に羽生は言ったものだ。これが今の自分の限界、今回は「これ以上ないくらい頑張った」と。

そうかもしれないが、人類の果てしない挑戦は続く。いつか必ず、誰かが4回転半を成功させるだけではない。その先にある5回転ジャンプを跳ぼうとするだろう。ここでは、その実現可能性を検証してみたい。本当に可能なのか。可能だとして、挑戦する意味はあるのか。

5回転、それは夢のジャンプだ。今はトップクラスの選手にさえ手の届かない勲章のように思われている。北京五輪の男子シングルで金メダルを獲得したネイサン・チェン(アメリカ)は米GQ誌の取材に、トライしようと思ったことはあるが、やめたと語っている。「(勝つのに)必要というわけではないし、けがのリスクが高すぎる。だから現時点で挑戦する価値はないと判断した」。ただし、「いつか誰かが成功させるのを見たい」とも付け加えた。

宇野昌磨は「いずれ誰かが跳ぶ」

2018年の平昌(ピョンチャン)五輪に続いて北京でもメダルを獲得した宇野昌磨は、19年にオリンピックチャンネルに寄せた動画でこう語った。「以前は現実的でなかった4回転ジャンプを、今では多くの選手が当たり前のように跳んでいる。だから5回転も、いずれは誰かが跳ぶのだと思う」

何年か前から男子選手にとっては、4回転を跳ぶことが世界で勝負する条件になっていた。そして北京五輪では、女子でも複数のロシア人選手が4回転に挑戦。15歳のカミラ・ワリエワが五輪の晴れ舞台で、女子として初めて4回転ジャンプを成功させた。過去にはジュニアの大会で日本の安藤美姫を含む数人が成功させているが、シニアの大会で4回転をきれいに跳んだ女子選手はワリエワが最初だ。

しかし女子の場合、ジャンプで4回転を決めるには一定の「若さ」が必要なようだ。10代の後半になって体形が変わってくると、4回転を成功させるのは難しいらしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、政策決定で政府の金利コスト考慮しない=パウ

ビジネス

メルセデスが米にEV納入一時停止、新モデルを値下げ

ビジネス

英アーム、内製半導体開発へ投資拡大 7─9月利益見

ワールド

銅に8月1日から50%関税、トランプ氏署名 対象限
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 5
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中