注目のキーワード

最新記事

対談

「藝大からマンガ家」の『ブルーピリオド』作者と「絵で食べていく」完売画家が語った美術業界の今

2021年12月28日(火)11時30分
朴順梨(ライター)

中島健太氏の著書『完売画家』(左)と山口つばさ氏の人気マンガ『ブルーピリオド』1巻 Newsweek Japan

<2020年の「マンガ大賞」を受賞した『ブルーピリオド』作者の山口つばさ氏と、話題の書籍『完売画家』著者の洋画家・中島健太氏が、絵で生きていくこと、美大という村社会、訪れつつある変化について語り合った>

絵を描くのが好き、粘土で何かを作るのが好き。そんな子供たちの多くが「大人になってもこれを続けたい」と思った瞬間、「芸術で生活できるのは、才能があるごく一部の人だけだから」という大人の言葉で打ち砕かれていく。

確かに、日本ではずっと「絵描きは食えない」と言われていた。しかし、そうでない人もいる。洋画家の中島健太は、武蔵野美術大学に在学中にプロデビュー。15年以上のキャリアの中で描いた約700枚もの絵画を全て売り尽くした、まさに「完売画家」だ。

そんな中島が自著『完売画家』(CCCメディアハウス)の発売を機に、マンガ家の山口つばさと「絵で生きていくこと」について大いに語り合った。

山口は、日本の美術・芸術大学の最高峰、東京藝術大学(藝大)を目指す矢口八虎と仲間たちをテーマにしたマンガ『ブルーピリオド』(講談社、リンク先は1巻)の作者で、自身も藝大出身。『ブルーピリオド』は2020年の「マンガ大賞」を受賞し、450万部以上のヒット作となっている(現在、11巻まで発売されている)。

美大受験と「道筋を具体的にイメージできる環境」の重要性

中島 『ブルーピリオド』でも片鱗が描かれていますが、実は美術大学は村社会的なところがありますよね。世間ではアーティストは同調圧力とは無縁のように思われているけど、美大のような狭いコミュニティーでは当たり前に存在する。

そこで、ぜひ山口さんに伺いたいのが、同調圧力との付き合い方。(藝大油絵学科の出身でありながら)マンガを描いていること自体が同調圧力に屈していない証拠だと思いますが、山口さんは狭いコミュニティーの中にいながら、どうやってそれを受け流していたんですか?

山口 狭いコミュニティーって、良くも悪くも特定のレギュレーションが強くなりがちなところはあります。でもそれは美大に限らずどこでもあると思っています。私がそれを受け流せたのは、そうですね......。

大学の講評の時などは「マンガだから別畑」と思われていたのか、先生たちはほとんど私のマンガに目も通さず素通り。逆に目の敵にされ批判されるようなことがなかったのがラッキーだったかもしれません(笑)。

中島 なるほど、僕も似たような体験があります。早い段階で空気を読むのを敢えてやめてしまう、というのは大事なのかもしれませんね。

山口さん、東京藝大に現役で合格しているじゃないですか。僕の時は倍率が35倍だったけど、山口さんの時は?

山口 同じくらいです。

中島 僕は結局、藝大は受からず一浪して私立美大に入ったんですが、藝大って飛び抜けて非現実的な倍率じゃないですか。僕はそれをパスするイメージを最後まで持てなかったんです。

藝大を現役で合格するというのは、その中でもさらに至難(年に数人という超難関)ですが、一見不可能に思えることを実現していくマインドって、どういうものなのだろうと興味があります。

山口 私は高校が美術系だったこともあって、藝大に合格している先輩がいたので、イメージの解像度が高くなっていたということがあると思います。

中島 それって、めちゃくちゃいいヒントですよね。親が東大だと子供も東大に入ったりするのと同じで、「道筋を具体的にイメージできる環境」があるのは大きい。

僕は高校時代ずっとアメフトをやっていて、絵画に全く縁がなかった八虎的なスタートだった(編集部注:『ブルーピリオド』の主人公、矢口矢虎も2年生の途中で美術部に入るまで縁がなかった)ので、35倍の難関をくぐり抜けることがイメージできなかった。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ワールド

ニューヨーク市の下水にポリオウイルス、市内で拡散の

ビジネス

米、輸出規制強化 先端半導体やガスタービンエンジン

ワールド

作家ラシュディ氏襲われる、首刺されヘリコプターで搬

ビジネス

米インフレ2%回帰へ一段の利上げ必要、指標注視=リ

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:世界が称賛する日本の暮らし

2022年8月 9日/2022年8月16日号(8/ 2発売)

治安、医療、食文化、教育、住環境......。日本人が気付かない日本の魅力

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    【映像】ガータースネークから幼蛇が出てくる瞬間

  • 2

    全部で11匹、手負いのヘビが幼蛇を産む瞬間

  • 3

    デリヘルで生計立て子供を私立の超難関校へ スーパーのパートも断られたシングルマザーに残された選択肢

  • 4

    史上最低レベルの視聴率で視聴者が反省会まで 朝ド…

  • 5

    「女性らしくない」との批判──ファーストレディ・オ…

  • 6

    【動画】露軍基地の大爆発と逃げる海水浴客

  • 7

    中国でミャンマー大使が急死 過去1年で中国駐在大使…

  • 8

    イーロン・マスク、自家用ジェットで車10分の距離を…

  • 9

    【映像】車庫にいた巨大ムースを至近距離で撮影

  • 10

    インドで手足が4本ずつある赤ちゃんが生まれる

  • 1

    史上最低レベルの視聴率で視聴者が反省会まで 朝ドラ「ちむどんどん」、沖縄県民が挙げた問題点とは

  • 2

    【映像】ビルマニシキヘビの死体を運ぶアメリカアリゲーター

  • 3

    ビルマニシキヘビの死体を担いで泳ぐワニが撮影される

  • 4

    「これほど抗うつ効果が高いものは思いつかない」 世…

  • 5

    【映像】ガータースネークから幼蛇が出てくる瞬間

  • 6

    中国ロケット長征5号Bの残骸、フィリピン当局が回収 …

  • 7

    【動画】6つの刃でアルカイダ最高指導者の身体を切り…

  • 8

    【映像】接客態度に激怒、女性客が店員の顔にホット…

  • 9

    【動画】プーチン「影武者」説を主張する画像と動画

  • 10

    お釣りの渡し方に激怒、女性客が店員にコーヒーを投…

  • 1

    【映像】ビルマニシキヘビの死体を運ぶアメリカアリゲーター

  • 2

    【動画】黒人の子供に差別的な扱いをしたとして炎上したセサミプレイスでの動画

  • 3

    【空撮映像】シュモクザメが他のサメに襲い掛かる瞬間

  • 4

    「彼らは任務中の兵士だ」 近衛兵から大声で叱られた…

  • 5

    【映像】接客態度に激怒、女性客が店員の顔にホット…

  • 6

    【映像】視聴者までハラハラさせる危機感皆無のおば…

  • 7

    【動画】近衛兵の馬の手綱に触れ、大声で注意されて…

  • 8

    史上最低レベルの視聴率で視聴者が反省会まで 朝ド…

  • 9

    ビルマニシキヘビの死体を担いで泳ぐワニが撮影される

  • 10

    【動画】珍しく待ちぼうけを食わされるプーチン

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集
日本再発見 シーズン2
World Voice
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
ニューズウィーク日本版ウェブエディター募集

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

STORIES ARCHIVE

  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月