コラム

ユダヤ至上主義がイスラエルを崩壊させる

2025年07月25日(金)13時20分
イスラエル軍に逮捕され『英雄』となった入植者のポスター(

イスラエル軍に逮捕され『英雄』となった入植者のポスター(ヨルダン川西岸地区、2024年6月6日撮影) TAICHI SOGA

<イランやシリアへの相次ぐ攻撃の裏で、イスラエル国内では急進的なユダヤ人入植者たちによる暴力行為が拡大し、社会の分断を招いている>

イスラエルとパレスチナの共存を目指したオスロ合意の立役者で、ノーベル平和賞を受賞したイスラエルのイツハク・ラビン首相(当時)が公衆の面前で極右の過激思想者に殺害されてから今年で30年。パレスチナ和平は風前の灯火となり、イスラエルでは過激派の蛮行に歯止めが利かなくなっている。

野放図な蛮行を象徴する事件が起きたのは今年6月末。ヨルダン川西岸で極右の過激派のユダヤ人入植者が、取り締まりに当たるイスラエル軍の拠点を襲撃したのだ。投石に車両破壊、さらには治安維持機材などに放火した。こうした過激派入植者による暴力行為は近年、悪化の一途をたどっている。


2023年には過激派入植者が、2人の入植者が襲撃されて死亡したことへの報復として、パレスチナ住民が寝静まろうとしていた西岸北部の村フワラを焼き払った。

その後も住民に対する襲撃が断続的に行われ、イスラエルの治安機関も「テロ」として首謀者やリーダー格を拘束したが、イスラエル軍にこれほど明確に矛先が向いた事件は類を見ない。

23年10月のイスラム組織ハマスによる攻撃を口実に、過激派入植者たちはヨルダン川西岸でもパレスチナ人に対する暴力行為を強めた。軍は一応そうした過激派を取り締まるが、その結果として、捕まった入植者たちを「英雄」としてたたえるポスターが西岸のあちこちに現れた。

筆者は英雄とされた入植者に話を聞いたが、どんな暴力行為をしても「自分たちは逮捕されるべきじゃない」と、民主主義国家において全く受け入れられない考えを持っていた。まさにユダヤ人至上主義だ。

プロフィール

曽我太一

ジャーナリスト。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。札幌放送局などを経て、報道局国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入りした。2023年末よりフリーランスに。中東を拠点に取材活動を行なっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾、野党議員24人のリコール全て不成立 頼総統に

ワールド

タイとカンボジア、停戦協議の即時開催に合意 トラン

ビジネス

アングル:米航空会社、プレミアムシートに注力 旅行

ワールド

赤沢氏、日本が失うのは「数百億円の下の方」 対米投
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 2
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や流域住民への影響は?下流国との外交問題必至
  • 3
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心中」してしまうのか
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「電力消費量」が多い国はどこ?
  • 10
    運転席で「客がハンドル操作」...カリフォルニア州、…
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心中」してしまうのか
  • 3
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や流域住民への影響は?下流国との外交問題必至
  • 4
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 7
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 8
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 9
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 10
    参院選が引き起こした3つの重たい事実
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 6
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 7
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 10
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story