コラム

【大江千里コラム】厳戒態勢のNYで考える、「コロナレッスン」という試練と希望

2020年03月29日(日)17時00分

ニューヨークでジャズピアニストとして活躍する大江千里氏 SENRI OE

<事実上「ロックダウン」のNYで、人々は何を考えどう過ごしているのか。NY在住の大江千里氏が現地の様子を緊急寄稿。街角から人が消え、静寂に包まれたとき、逆に見えてきたニューヨーカーの本質とは――。>

ニューヨークから音が聴こえなくなった。

24時間走り回っていた救急車も、ひっきりなし威嚇してくるクラクションも。それはまるで 普段、「オーマイゴッド」と口にする我々に神様から禊(みそぎ)の水が注ぎ込まれたかのよう。

完全ロックダウンは大変だ。ちょっとずつ前から買っていたもので、2週間はとりあえず大丈夫か。

大きなスーパーは長い列で、あそこへ行くとかなりの確率で感染する。なので人の少ない小売店に夜中にこっそり行く。

そこで会った青年が「コロナハグって知ってる?」と言う。今はスキンシップができないので、肘と肘、脚の踵(かかと)と踵をあわせるのだそうだ。「踵の方が安全だけどね」、と教えてくれる。

僕が、(スマホアプリの)Apple Newsでコロナ情報を得ていると言うと、その青年は「ダメだ。場所により違う。(携帯電話で)『692692』って番号に『COVID』ってテキストメッセージを送信すると、ニューヨーク市のコロナ対策が送られてくる」と言う。

さっそくやってみたら、すぐに州から知らせが来た。最初が「Do your part NY! (ニューヨークの一員としてやるべきことやろう!)」

そのあとすぐに、「寮の前でお腹の空いている学生に1日3食の配給があるよ」「小さなビジネスをやってる人へのサポートが始まるよ」「検査は全員タダになるかも」と、ピンポイントの情報が毎秒来る。

なにしろ、緊急に投下される予算が日本の1年間の国家予算分になりそうなのだ。なんだか見えない敵と戦っている「連帯感」や「繋がり」を感じ、家にいても心は意外にも平穏で安全だ。

僕は「ピアノを弾いて」「料理を作り」「冗談を言い」、今まで以上に一手間かけた生活を(愛犬の)「ぴ」としている。起床して窓の外を見ると、人が歩いておらず音が全く聴こえない。その代わり、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場のウェブサイトに行くと、ネット上で過去のオペラ公演を観られるようになった。

僕も「calm, soothing and feel good(静かな自分のジャズの曲ばかりをDJ風につなげたもの)」をMIXして、ウェブで公開。家にいる時の38分、しばし目をつむり静かに聴いてほしい音楽だ。

そのうち環境が整えば家でオンラインライブもやれるし、クッキングやスナップチャットなど新たな「家から発信のエンタ」も、すでに全開中だ。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

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