大地震1年

ハイチ再建までの遠すぎる道のり

大地震から10カ月後の昨年11月、復興が一向に進まない構造に警鐘を鳴らした本誌の現地深層リポート

2011年1月13日(木)14時41分
ジェニーン・インターランディ

NGOの数では世界一

 ハイチのジャンベルトラン・アリスティド大統領(当時)をよく思わなかった米ブッシュ前政権は、02年から「すべての援助を直接NGOに提供し始めた」と、ポール・ファーマー国連ハイチ副特使は言う。「アメリカの方針はほかの国々と国際金融グループの方針にも影響していった」

 比較的給料のいいNGOの仕事に優秀な人材が殺到し、ハイチの公共セクターは衰退。医療と教育はますます悪化し、蔓延する腐敗にも拍車が掛かった。その一方でNGOは猛スピードで広がった。ハイチの国民1人当たりのNGOの数は、地震発生時は既に世界一だった。

 NGOとは博愛精神に満ちた人々が運営する慈善団体だ。それでもやはり、大きな官僚機構に付き物の問題と無縁ではない。資金供与団体と篤志家の善意が頼りで、競争心むき出しで秘密主義で外からの声に対して過敏になりかねない。しかもハイチの場合は、被害の規模もNGOの注意を引こうとする声も大き過ぎる。

 NGOは無力だと言っているのではない。人道支援組織は巨額の資金を投じ(08年だけで160億〜180億ドル、ゴールドマン・サックスとJPモルガン・チェースとモルガン・スタンレーの賞与資金の総額に匹敵する)、非常時に無数の人々を雇用している。

 しかし善意に満ちたNGOが束になっても、強力で機能している中央政府の代わりはできないことを、ハイチ地震は浮き彫りにした。「医学用語でいう『慢性疾患の急性増悪』というやつだ」と、医師でもあるファーマーは分析する。「公共セクターは既に脆弱で、資金の監視や効率的使用が極めて難しくなっている。すべての血液を細い針で輸血しようとするようなものだ」

 そこで国連は、NGOや供与国とハイチ政府との調整役として、暫定ハイチ復興委員会(IHRC)を新設した。原則として、NGOのすべてのプロジェクトと援助資金はまずIHRCが厳密に審査する。これまでに約20億ドルが承認済みだ。

「ハイチでは前例のない委員会」と、クリントン財団のグラハムは言う。対外援助専門家の間では、ハイチを無秩序状態の瀬戸際から救う唯一の希望をもたらす、という声もある。

被災国が抱えるジレンマ

 しかしハイチの人々が自らの運命に責任を負えば、つらい選択が待っている。たとえ非効率でも人間の基本的欲求に対応すべく資金を投じるか、将来の安定と経済成長のためにより緩やかな復興に甘んじるかだ。

 例えば国連世界食糧計画(WFP)などが始めた食糧配給プログラムは、地元農家の市場を奪うとして、開始後すぐにハイチのルネ・プレバル大統領から中止を求められた。今後も同様のジレンマが待ち受けている。

 ハイチの人間に手作業で瓦礫を撤去させるか、それとも市中心部に重機を配備できる外国企業と契約するか。結局、決めるのはハイチ政府だ。ハイチでもニューオーリンズでも、災害援助活動は政治と切り離せない。

 食糧、避難所、汚染されていない水はもちろん必要だ。しかしハイチの人々は、国の主権も取り戻したがっている。いつまでも外国の援助に頼ってもいられない。

 ハイチは地球上で最も不運な国、貧困と数十年間に及ぶ腐敗した独裁政治の後遺症に苦しんだ上、大災害に見舞われた国、と見られがちだ。アメリカをはじめ諸外国は、独自の行動計画とイデオロギーと有能な官僚機構で、誠心誠意この難局に対処した。彼らが去った後、ハイチが独り立ちできるよう願うばかりだ。

[2010年11月24日号掲載]

今、あなたにオススメ

注目のキーワード

注目のキーワード
トランプ
投資

本誌紹介

特集:習近平独裁の未来

本誌 最新号

特集:習近平独裁の未来

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

2026年2月17日号  2/10発売

MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

人気ランキング

  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 9
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 10
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
もっと見る
ABJ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。