コラム

中国、2年ぶりのマイナス成長か

2022年07月01日(金)19時59分

若年層失業率は18%にのぼるが、今年はそこに史上最多の1076万人の大学生が卒業して社会に出てくる(写真は2021年6月、武漢の大学の卒業式) REUTERS

<最初のロックダウンで新型コロナを抑え込んだ成功体験が捨てられなかった中国政府は、今年は過剰なロックダウンで経済を大きく傷つけた。それでも中国経済はそこから回復できるのか否か、7月中旬発表の4-7月期の成長率は注目だ>

中国・上海では3月28日から市内を東西に分けて厳しい外出制限を行うロックダウンを実施し、以後5月31日に解除するまで市内のロックダウンが続いた。上海は自動車組立や部品産業など中国の工業の重要な拠点であるため、ロックダウンは中国経済全体に大きなマイナスをもたらした。

中国の自動車生産台数は3月には223万台だったのが、4月には118万台と半分近くまで落ち込み、5月はやや持ち直して186万台だったが、昨年5月と比べて13%少なかった。自動車産業は多数の部品を組み立てる産業であるため、一都市のロックダウンによって産業全体に影響が及ぶ。鉄鋼や化学といった装置産業の場合はそれほど大きなダメージはなかったと思われるが、それでも鉱工業全体の付加価値額は4月には前年同月比マイナス2.9%、5月にはプラス0.7%と低迷が続いた。

また、上海をはじめとするいくつかの都市でロックダウンが起きたため、サービス産業が打撃を受け、サービス産業の生産指数は4月に前年同月比マイナス6.1%、5月はマイナス5.1%となった。この指標がマイナスとなるのは2020年4月以降では初めてである。

史上最多の大卒が失業率を押し上げる?

今年は、3月の全国人民代表大会で年間のGDP成長率に関して「5.5%前後」とかなり強気の目標を設定していた。中国の第1四半期(1~3月)の成長率は4.8%で、目標には届かなかったものの、まずまずの滑り出しであった。だが、4月と5月は鉱工業とサービス産業の状況からみて経済全体としてもマイナス成長であっただろう(GDP成長率は月ごとには計算されていないので、これはあくまで推計である。)

こうした経済の落ち込みは失業の増加をもたらしている。2021年後半、都市部の失業率は4.9~5.1%と、中国としてはまずまずの水準であったが、2022年になってから上昇し、4月には6%を超えた(表1)。特に16~24歳の若者の失業率が非常に高い。もっとも、この年代の都市部の若者のほとんどは大学、短期大学、専門学校などの学生であるので、若年層失業率の計算には入ってこない。ただ、6月末には、史上最多の1076万人の大学生が卒業して社会に出てくる。その直前の段階で、若年層失業率が18%を超えているのは、かなりヤバい状況といわなければならない。

maruchart.jpeg

中国政府は落ち込んだ景気を回復させるため、5月31日に「経済を安定させるための包括的措置」として33項目の景気刺激策を打ち出した。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story