コラム

英国のEU離脱問題、ハッピーエンドは幻か

2016年06月09日(木)18時17分

 ロンドン名物の黒塗りタクシー「ブラックキャブ」の運転手は、配車サービス「ウーバー」の移民ドライバーに客を奪われ、怒りを露わに「離脱」を唱えている。バングラデシュ料理店のオーナーはEUから離脱すれば、祖国から調理人を呼び寄せる枠が確保できると算盤を弾く。

 就労時間が保証されず、雇用主が必要とする時にだけ働く「ゼロ・アワー」という雇用契約で、仕事もないのに念のため自宅で待機させられる低賃金労働者や、失業者の恨み。緊縮財政で社会保障費を削られた人々の怒りが噴き出している。自由貿易と過当競争の憎きシンボルが「移民」であり、誰が英国人なのかを問うナショナリズムと、アイデンティティーによる排外主義に英国は絡め取られている。

 グローバル化とデジタル化、欧州統合は思っていた以上に多くの敗者を生み出していた。労働党のブレア元首相が唱えた市場主義と福祉政策を両立させる「第三の道」を推進したブラウン前首相も、マンデルソン元ビジネス・イノベーション・技能相も「自由貿易と移動の自由が経済成長と雇用を創出する」としてEU残留を訴えている。

 マンデルソン氏に「グローバル化と欧州統合は豊かな者をより豊かに、貧しき者をより貧しくした。どのようにして格差を埋めるつもりか」と質問すると、「自由貿易経済だけを推進すると格差は拡大する。同時に富や所得の再配分のため社会民主主義的な政策が必要だ。それこそ中道左派に求められる挑戦だ」と答えた。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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