焦点:日本政府、イラン情勢の長期化懸念 利上げ遠のくとの声も
写真は高市首相(右)。2月20日、東京で撮影。REUTERS/Kim Kyung-Hoon
Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 2日 ロイター] - 米国とイスラエルが開始したイランへの大規模攻撃について、日本政府は事態の長期化を懸念している。原油高騰に伴うエネルギー価格の上昇や物価高が国民生活を圧迫しかねないからだ。複数の関係者はロイターの取材に「重要なのはこの争いがどのくらい続くかだ」と述べた。また、先行きの不透明感が増したことから、日銀の追加利上げが遠のいたとの声も出始めている。
<政府はリスクに身構える>
「まずは原油の供給途絶があるかどうかだ」。経済への影響分析を担う政府関係者の一人は2日、こう述べた。ロイターが船舶の運航データを確認したところ、ホルムズ海峡に通じるペルシャ湾内に少なくとも150隻の各国タンカーが錨を下ろして停泊していることが分かった。川崎汽船 など日本の海運大手の船舶も足止めされている。伊藤忠商事 は2日、同湾から出荷する石油や石油製品の輸送に一部影響が出ていると明らかにした。
日本は原油の9割以上を輸入に依存。そのうち7―8割が、イランに面した原油ルートの要衝ホルムズ海峡を経由して運ばれる。資源エネルギー庁によると、国内の石油備蓄は2025年12月末時点で計254日分あり、前出の関係者は「現時点で途絶えることはない」との見方を示した。一方、「問題は価格。1バレル80ドルを超えると日本経済、内需で稼いでも海外に漏れてしまい、景気後退のリスクが出てくる」と語った。2日のアジア時間の取引で北海ブレント先物は1バレル=82.27ドルに一時上昇。米WTI先物は75.13ドルまで値を上げた。
高市早苗首相はイランへの攻撃が発生した2月28日夜、経済への影響を洗い出すよう政府内に指示した。また、3月2日の衆院予算委員会で「ホルムズ海峡封鎖については事実関係の情報収集を行っている。周辺海域の乗員の安全は確保されていることを確認した」と述べ、「関係国と緊密に連携しながら、エネルギー供給や金融市場、物価の動向を注視して、我が国のエネルギー安定供給確保に万全を期す。今後国民生活や経済活動への影響を最小限に抑えるために必要な対応を機動的に講じる」と語った。
経済官庁関係者は「いま政府内でやるべきはホルムズ海峡がどうなるか、に尽きる」と説明。「備蓄があるので直ちに影響が出るわけではないが、重要なのはこの争いがどれくらい続くのかということ。長引けばインフレの押し上げになる」と話した。
<専門家「ガソリン減税の効果消失も」>
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は「ホルムズ海峡が封鎖されれば、日本経済に深刻な打撃となることは避けられない」とした上で、事態が長期化し、2024年にイランとイスラエルが衝突した際の原油価格のピークである1バレル87ドルを想定すると、「日本の実質国内総生産(GDP)は1年間で0.18%押し下げられ、物価は0.31%押し上げられる」と試算した。
また、「日本経済には相応の打撃となる一方、コメを含む食料品価格上昇率の低下によってようやく沈静化を見せつつある物価高騰を再燃させてしまう可能性もある」と指摘。「ガソリン価格は約3割上昇して全国レギュラー平均で1リットル200円を超え、ガソリン暫定税率廃止による効果は消失。電気代、ガス代も半年から1年程度の間に1割を超える上昇となるだろう」と見通した。製造コストの上昇を価格転嫁しづらい中小企業の収益には大きな打撃になるという。
<日銀の追加利上げに影響か>
こうした経済の不透明性が日銀の金融政策にも影響を与えかねない、との見方も政府内に出ている。市場では早期の追加利上げの可能性が取り沙汰されてきた。対イラン攻撃後、複数の政府関係者はロイターに「日銀は利上げがしにくくなった」と語った。
高市氏が先の日銀審議委員人事でリフレ派の起用方針を示したことで早期の利上げ観測は後退していたとは言え、事態の長期化によって円安が進行すればさらなる物価高騰に追い打ちをかけかねない状況だ。
市場は2日午前に講演した氷見野良三副総裁が中東情勢にどう言及するか注目していたが、氷見野氏は「状況をしっかり注視していきたい」と述べるにとどめた。準備していた講演内容は週末以降の情勢変化を前提にしていないと説明した。
紛争の見通しを政府はどう見ているのか。前出の経済官庁関係者は「イランには周辺国に味方がいない。ロシアや中国がイランに武器供与するとも思えない。戦線を広げようにも広げられないのではないか」と分析。一方、別の関係者は「米国内でテロが起こるリスクをどうみるかだ。米国は大きなリスクを抱えたことになる」と不確実性を指摘した。
高市氏は2日の衆院予算委員会で、「関係国と緊密に連携して情報収集に努めている」と説明。「イランの核兵器開発は決して許されない。イランに対して核兵器開発、周辺国への攻撃を含む地域を不安定化させる行動をやめるとともに、交渉を含む外交的解決を強く求める」とした上で、「エネルギー安全保障を含む中東地域の平和と安定、国際的な核不拡散体制の維持は我が国にとっても極めて重要だ。事態の早期鎮静化に向けて国際社会とも連携しながら引き続き必要なあらゆる外交努力を行っていく」と強調した。
(鬼原民幸、竹本能文 取材協力:Katya Golubkova、岡坂健太郎 編集:久保信博)
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