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アングル:愛と悲しみのバレンタインデー、花屋が語るコロナ禍のドラマ

2021年02月14日(日)08時14分

 デボラ・デラフローさんは40年にわたり花屋を営んできた。その彼女にとっても、今年のような2月は初めてだ。写真は葬儀用の花を運ぶ人。ロサンゼルスで4日撮影(2021年 ロイター/Lucy Nicholson)

Tim Reid

[8日 ロイター] - デボラ・デラフローさんは40年にわたり花屋を営んできた。その彼女にとっても、今年のような2月は初めてだ。

「『大好きなあなたへ』というカードを送る人がいる一方で、『大好きだったあなたへ』というカードを送る人がいる」とデラフローさん。花屋にとって1年で最も忙しい「かき入れ時」の2月、彼女はバレンタインデー用のブーケとカードを用意しつつ、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のために愛する人を失った人からの注文への対応にも追われていた。

3000マイル(約4828キロメートル)離れたロサンゼルスの花屋で働くフェルナンド・ペラータさんは、この2カ月間、新型コロナウイルスの犠牲者を出した100世帯以上の家族に花を売ってきた。悲しみに沈む家族の多くは、以前からのなじみ客だ。

「ある日顔を合わせた顧客が、翌日には亡くなっていた」と23歳のペラータさんは言う。ある母親は、子どもたちのために何年も花を買っていたという。だが、最近になってその息子と娘が、母親の葬儀のためにバラを買いにきた。

ペラータさんが働くのは、「スキッド・ロウ」「ファッション・ディストリクト」両地区に接し、生花販売の盛んな地域だ。歩道には、バレンタインデー用の花柄テディベアの隣に、バラで作られた3フィート(約91センチメートル)大の葬儀用十字架や白い天使の羽がイーゼルに飾られている。

<葬儀需要で再び繁忙に>

年間売上高が350億ドル(約3兆6580億円)規模の生花産業は、恐らく他のどの産業よりも、家庭での喜びや悲しみ、記念日に深く関わっているセクターである。花屋の店員たちが2月14日のバレンタインデーに備える一方で、COVID-19による米国内の死亡者は46万人に迫っている。多くの州では、今も1日あたりの死亡者数が過去最高の水準にある。

ロサンゼルスのダウンタウンにある国内最大の生花市場の1つ、カリフォルニア・フラワー・モールのマーク・チャトフ最高経営責任者(CEO)(56歳)によれば、昨年3月にカリフォルニア州が最初のロックダウンに入ったとき、結婚式や卒業式、会議その他の大型イベントが突然消滅してしまったため、一部の花屋は休業したという。だが、その後はパンデミックによって葬儀が急増した。

「(今月は)バレンタインデーと葬儀だ。葬儀用の需要のおかげで、花屋は大忙しだ。うれしいやら悲しいやら。繁盛はしているが、理由が良くない」とチャトフCEOは話す。

ロサンゼルスの花屋「デビッズ・フラワーズ」で働くマリア・アルバレズさん(25歳)によれば、同店のマネジャーたちは、バレンタインデーの需要を理由に、葬儀用の生花を求める遺族の注文を断らざるをえなかったという。

「悲しくて、私たちも胸を痛めている。葬儀のための生花を用意できないと遺族に告げるのは本当に辛い」とアルバレズさんは言う。「おなじみの顧客も多い。家族が入院し、数日後に亡くなってしまった。その話を聞かせてくれた。彼らはとても傷ついている」と語った。

アルバレズさんは、悲しみに暮れる人々に、葬儀用の生花の費用を告げるのも辛いという。供給が滞り、需要が膨大なため、葬儀用の花輪の価格も、ほんの数週間のうちに85ドルから120ドルに上昇した。

「そういう家族の多くは、仕事も失っている。彼らにとっては大金だ。何とか元の価格で提供してあげたいと思うが、そうも行かない。今は仕入れ値も非常に高くなっている」とため息をついた。

<想いを届けるビジネス>

米国の生花産業をまとめる最大の業界団体である全米生花店協会によれば、国内で販売される生花の大半は、エクアドルとメキシコからの輸入品だ。

多くはオンラインで行われる生花の注文はここ数カ月で急増しており、サプライチェーンは逼迫している。全米規模で生花のオンライン販売を行っているファームガール・フラワーズの創業者であるクリスティナ・スタンベルCEOによれば、十分な量の生花を期日どおりに配達するための飛行機やトラックの余裕も不足してきたという。

ケン・フライタグさん(67歳)は、テキサス州オースティンで40年間、家族経営の生花販売を営んできた。フライタグさんによれば経営はおおむね順調だったが、今月は大変だったという。息子と娘、孫たちがCOVID-19に感染したというだけの理由ではない。

フライタグさんと約50人の従業員は、注文を受けた花に添えるカードを印刷する前に、誤りがないか読み合わせをする。

「多くが、お悔やみのカードだった」とフライタグさんは言う。「その家族に何があったかは理解できる。花屋というのは、想いを届けるビジネスなのだ」

(翻訳:エァクレーレン)

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