有権者の3分の2は「EUは自分の国にとってプラス」と支持しているものの、EUの未来に対する悲観論が広がっている。今後10~20年のうちにEUが崩壊すると考えている人はフランスで58%、イタリアやポーランドで57%、経済が好調なドイツでも50%に達している。

驚くべきことだが、18~24歳の世代で次の10年のうちにEUの加盟国同士が戦争になると信じる人はオランダやルーマニアで実に51%、チェコやハンガリーで49%、フランスでも46%にのぼっている。

kimura20190524100202.jpg
戦争が欧州で起きる(グラフ、筆者作成)

世界金融危機の反動で、競争を促すEUのシステムが物凄いスピードで域内の「勝ち組」と「負け組」を広げてしまったことが背景にある。英国のブレグジット党だけでなく、イタリアの同盟(旧北部同盟)、フランスの国民連合(旧国民戦線)と右派ポピュリストが首位を走る。

地道に難民を減らすしかない

EU離脱交渉の惨状を目の当たりにして英国以外の国では単一通貨のユーロやEUから出たいと騒ぐ政党はさすがに影を潜めた。

人道主義だと言っても、EUに年間100万人を超える難民が流入した難民危機のような事態がもう一度、起きると、EUも最大の受け入れ国になったドイツも持たない。EUの域外国境管理を強化したり、難民認定の基準を厳しくしたりという現実路線に舵を切らざるを得ない。

フランスで次期政権を狙う国民連合も、イタリアで連立を組む新興政党・五つ星運動と同盟も反EUの旗を下ろして緩やかな国家連合を目指すようになった。EU域内の「構造改革」だけではなく「所得配分」や「富の再分配」にも配慮した政策の方針転換は不可欠だ。

EUのあり方を巡って、統合を深める連邦主義か、それとも、それぞれの国の主権を尊重する国家連合を目指すのか、今後、本格的な議論が行われることになる。

英国が「合意なき離脱」に突き進むのか、EUに残留するのかは、欧州にとっても国際社会にとっても、もはや些末な問題に過ぎないのかもしれない。

問題は欧州の平和を守れるか、否か。EUの未来に希望を示せるのか、今回の欧州議会選はそうした意味で、歴史の分岐点で行われる重要な選挙だと言えるだろう。


<欧州議会選>EUは28カ国あって、投票できる年齢は16歳のオーストリアやマルタ、17歳のギリシャ、そのほかは18歳以上、立候補できる年齢も18歳から25歳までとさまざまだ。任期は5年、議員数は人口に応じて割り当てられる。投票率は40年前の62%から前回5年前の43%と下がり続けている。

20190528cover-200.jpg

※5月28日号(5月21日発売)は「ニュースを読み解く哲学超入門」特集。フーコー×監視社会、アーレント×SNS、ヘーゲル×米中対立、J.S.ミル×移民――。AIもビッグデータも解答不能な難問を、あの哲学者ならこう考える。内田樹、萱野稔人、仲正昌樹、清水真木といった気鋭の専門家が執筆。『武器になる哲学』著者、山口周によるブックガイド「ビジネスに効く新『知の古典』」も収録した。