<2020年の米ネビュラ賞(長編部門)受賞作が描くのは、テロとパンデミックの後に人々が隔離して暮らす近未来のアメリカ>

2020年6月現在、世界はまだ Covid-19(新型コロナウイルス)のパンデミックの真っ只中にある。厳しい自宅待機(あるいはロックダウン)を解除している地域はあるが、そのために患者数が急増している地域もある。ワクチンが出来て広まるまでは、このパンデミックは収まらないし、公共の場で大勢の人が集まる音楽やスポーツのイベントはそう簡単にできないだろう。

世界がこのような状態になることを、2020年の元旦に誰が予想できただろうか。

ところが、まるでこの状況を予言したかのようなSFが、昨年2019年9月に刊行されていたのだ。今年5月にネビュラ賞(長編部門)を受賞した『A Song for a New Day』の舞台は、テロとパンデミックの後で人々が隔離して暮らす近未来のアメリカである。

女性ロックミュージシャンの Luce Cannon は、若手のスターとして注目を集めるようになっていた。大きな会場で初めてのトリを務めることになった前夜からアメリカ中で同時テロが起こり始めた。すべてのコンサート会場やスポーツ・アリーナが爆弾予告を受け、大きなイベントはすべて中止されたのだが、Luceはレーベルやマネジャーの忠告を無視してコンサートを強行した。このコンサートは、世界で最後に行われた大規模なコンサートとして歴史に残った。

パンデミック後の「ニューノーマル」

同時テロに続いて起こったのが、高熱と発疹を伴う感染症「ポックス」のパンデミックだった。これらの対策として政府は大人数の集まりを禁じ、10年たった現在でもナイトクラブやライブコンサートは法で禁じられ、厳しく取り締まられていた。

子どもの頃にポックスに感染して生き残った若者は、hoodと呼ばれる機器を着装してアバターで仕事をし、他人と関わることしか知らない世代だ。SuperWallyのサービスセンターに務める Rosemary もそのひとりだ。両親は、子どもの命の安全のために隣人がいない田舎に引っ越し、農業を始めた。Rosemaryは両親の家の自分の部屋で安物の hoodを使ってカスタマーサービスをしているだけの人生だ。

だが、ホログラムでバーチャルコンサートをする StageHoloLive(SHL)のカスタマーサービスをしたことがきっかけで、RosemaryはミュージシャンのリクルーターとしてSHLで働くことになる。これまで両親の家しか知らなかった Rosemaryは、他の都市に旅できることに興奮を覚える。そして、本当のライブの素晴らしさを体験し、ミュージシャンたちにも惚れ込む。

最初に Rosemaryが発見したのは、Luceが作ったライブ会場だった。そこで才能あるバンドを発掘した Rosemaryだが、SHLによって Rosemaryのビジネスは破壊されてしまう......。

この小説の政府と現在アメリカのトランプ政権とでは対応がまったく逆なところが微妙ではあるが、パンデミック後の「ニューノーマル」の社会を深く考えさせるSFだ。

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