通常であれば、作家の代理で出版社などと交渉するのは「文芸エージェント」だ。だが、クリントンとパタースンの場合は文芸エージェントではなく、「弁護士」のロバート・B・バーネットなのだという。
バーネットはワシントンDCでは有名な弁護士であり、オバマ元大統領夫妻、ヒラリー・クリントンといった民主党の大物政治家だけでなく、ジョージ・W・ブッシュ元大統領など共和党の政治家もクライアントに持っている。ニューヨークタイムズ紙の記事によると、ビル・クリントンとジェイムズ・パタースンが共著で小説を書くことを思いついたのはバーネットで、彼が2人にそのアイディアを持ちかけたらしい。
では、肝心の内容はどうか?
簡単に説明すると、『The President Is Missing』はアメリカで「Airplane Read(飛行機の旅で読むのに適した本)」と呼ばれる類の小説だ。広いアメリカでは、飛行機は日本の新幹線かバスと同じような気軽さで使われる。長いフライトの途中には頭を使う難しい本や重い内容の本ではなく、退屈さを忘れさせてくれるようなスピード感がある面白い本が好まれる。『The President Is Missing』はそんな政治スリラーだ。
528ページもある分厚い本だが、各章がとても短くて、128章+エピローグという珍しいスタイルだ。章が短いせいで長い小説にもかかわらず、スピード感がある。
主人公は50歳の現役大統領ジョナサン・リンカーン・ダンカンだ。ダンカンは元軍人なので徴兵を逃れたビル・クリントンとその点は異なるが、あとはイメージが重なるところが多い。
小説は、テロリストと直接交渉した疑惑で下院の特別調査委員会から喚問されたダンカン大統領が、弾劾の危機に直面しているところから始まる。
このさなかに、水面下でアメリカをターゲットにしたサイバーテロの計画が進んでいた。テロが成功すれば、多くの死者が出るだけでなく、経済が破綻し、アメリカは何十年も発達途上国のような状態になってしまう。このテロには、他国の機密機関や複数のスパイ、暗殺集団が関わっており、誰が誰と通じているのか見えてこない。
しかも、大統領とトップアドバイザーの8人しか知らない暗号が漏れていた。大統領が信頼している側近の中に裏切り者がいるのだ。副大統領すら信頼できない。ダンカン大統領は、国家の安全を守るためにやむを得ず姿をくらます。そして、裏切り者を探し出し、サイバーテロを防ごうとする。