[香港 18日 ロイター] - 今年2月に発生した香港での暴動で、デモ隊がゴミ箱に火をつけ、警官にレンガを投げ始めたとき、クリス・リー氏はきょうだいと母親を残して、台湾に移住するという自らの決断が正しかったとの確信を深めた。
アジアで最も安全で、法律を順守する都市の1つだと長年考えられてきた香港だが、時折発生する暴力的な抗議行動によって急速に評価が分かれている。こうした運動は、特別行政区である香港の民主化をめぐる中国共産党指導部との緊張関係によって一部誘発されている。
「混乱した政治だけが原因ではない」と3月に台湾に移住してレストランを開業したリー氏は話す。「不合理で気まぐれな人々もまた、私を移住へと駆り立てた」
リー氏だけではない。独立系シンクタンク「シビック・エクスチェンジ」が6月公表した調査によると、42%の香港居住者が同地を離れたいと回答。これは、隣国シンガポールにおいて20%が海外移住願望を示したのに対して、倍以上の数字となっている。
回答者1500人のうち70%が、香港での生活は「悪くなる」、もしくは「かなり悪くなる」と回答。最大の心配事は、住宅問題、「政府の質」、そして教育だった。
今年の第1・四半期にカナダに移住した香港居住者の数は、前年同期比でほぼ倍増。また、台湾への移住も同36%増加した。
米国の最新統計は2014年からで、変化は見られなかった。英国への移住は減少したが、投資家として居住資格を求める人々に課される最低額は200万ポンド(約2億8000万円)に倍増している。
オーストラリアは、香港からの移住者数を出していないものの、中国本土と香港、台湾、マカオ、モンゴルを合わせた総数は、昨年微増している。
<将来に対して神経質に>
中国政府に対して香港の完全民主化を求める抗議運動、「オキュパイ・セントラル(中環を占拠せよ)」が2014年後半に発生して以降、香港の将来についての信頼が低下している。
「オキュパイ運動後、(香港の人々は)将来に対して神経質になり始めた」と台湾への移民手続きを請け負うアンレックス・サービシーズのディレクター、アンドリュー・ロー氏は語る。
移住手続きは通常、1年から2年かかる。そのことが「数字が、今になって伸びている理由だ」と移民手続きを扱うローテ・インターナショナル・カナダのメアリー・チャン氏は指摘する。
中国指導者についての政治ゴシップ本を専門に扱う香港の書店店主5人が行方不明になった事件も、1997年に香港が英国から返還される際に中国が認めた「一国二制度」に対する信頼低下につながった。この5人のうちの何人かは中国の工作員によって拉致されたとみられている。
香港に戻ってきた1人の書店店主は、もはや香港は安全だと思えないため、台湾に移住するかもしれないとメディアに語っている。
「2年前は、若者が最も政府に腹を立てていた。だが、今や不満はあらゆる世代に広がっている」と今回の調査を率いた1人、マイケル・デゴライヤー教授は語った。
台湾の対中政策を担当する行政院(内閣)大陸委員会は、香港人の台湾への移住が今後も増えると予想している。
「台湾は、オープンで多元的、進歩的な民主社会で、人々は大変友好的だ。住宅価格や消費者物価が比較的安価なことや、起業機会、香港と台湾における文化の類似性など、あらゆる要因が、香港居住者に台湾移住を検討させている」と同委員会は説明した。
香港の入管当局は、調査についてコメントしなかった。香港の保安局も、香港政府が海外移住を懸念しているか、それは政治懸念によって発生しているのか、などの質問に回答しなかった。
保安局は、無犯罪証明書の請求件数に基づいた、海外移住に関する独自推計を公表している。それによると、移住者の数は昨年微増したものの、10年前と比べると減少していた。
(Sharon Shi記者、翻訳:高橋浩祐、編集:下郡美紀)