1965年の独立以来、建国の父にして現首相の父親であるリー・クァンユー内閣顧問が徹底して国民を管理、統制してきた理由の一つに、私会党と呼ばれる華人秘密結社の存在がある。建国前には賭博、麻薬などの利権にはじまり、ストライキや選挙へ介入していた組織だが、現在はほとんど消滅している。政府が恐れているのは、カジノのような商業施設が誕生すれば、再び同様の組織が暗躍する可能性だ。

 一般の中国系シンガポール人のギャンブル好きも、政府の懸念材料だ。政府の発表では、約8割を華人が占めるシンガポール人は毎年、政府が管理する合法賭博(ロトやトト)で60億SDを費やし、海外のカジノで15億SDを落とす。私はシンガポールに住んでいたことがあるが、街のあちこちにある販売所で老若男女問わず行列をなす光景は、珍しくも何ともなかった。

 ある英国団体が以前行なった調査では、カジノで最も負けている国民はオーストラリア人に次いでシンガポール人が2位。1人あたり500ドルほど負けている計算になるという。カジノがギャンブル依存症の増加を招く引き金になりかねない。

■国民への規制も効果なし?

 カジノの認可でパンドラの箱を開けてしまったシンガポールは、こういった諸問題に対処するために、シンガポール人をカジノに近づけない対策を取りまとめているが、その効果は疑わしい。

 まずシンガポール国民からは入場料を徴収する課金制度。1日につき100SD、または1年間の年間パスならば2000SDを支払わなければ入場できない。ローカル人にとってこの金額設定はかなり高く、気楽に足を運べる額ではない。だがカジノで最大の顧客は、実はシンガポール人と永住権保有者になるだろうとシンガポールでは言われている。

 政府は国民に対して、この事業があくまで総合リゾート・プロジェクトであってカジノはその一部分でしかないと強調している。そして全敷地内でカジノが占めるスペースの割合を5%以下にすることを定め、例えば、MBSの敷地内でカジノ施設の占める割合は3%に過ぎない。ただカジノが目玉であることを考えれば、これも大した効果があるとは思えない。

 リー・シェンロン首相による05年のカジノ解禁の声明でも、「このリゾート開発は1年以上の間、政府によって検討されてきたプロジェクトだ。それにはカジノのような賭博場も含まれている」と慎重な言い方をしている。また国民の目をカジノから逸らせるために、地元メディアでのカジノ広告を禁止している。

 「水がきれいすぎて、魚がいない」と香港や台湾から揶揄されるシンガポール。水を汚す必要に迫られた今、シンガポールの素顔が見られるはずだ。

**カジノに懸けたシンガポール(1/2)

――編集部・山田敏弘

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