<侵略戦争は常に、世界を見る上での自らの「遠近法」を疑おうとしない国が起こす。そして冷戦以降のアメリカが証明したように、その行動は失敗する運命にある>

『トワイライト・ストラグル』という、1945~89年の米ソ冷戦史を追体験できることで著名なボードゲームがある。いまはカード等も含めて日本語化されたものが手に入るし、英語版でならアプリでもプレイできる。

米国ないしソ連を担当して、世界各国に自国の影響力を扶植してゆくのだが、地道に勢力を拡大するより一挙に軍事行動(主にクーデター)を仕掛けた方がしばしば手っ取り早いという、身もふたもないリアリズムが特色だ。

さらに皮肉なのは米ソによる「核の均衡」の、ゲーム内容への反映のさせ方だ。クーデターは効率的だが、主要国で1回起こすごとに核戦争への危険度が増して「相互に軍事行動禁止」の地域が設定され、逆説的ながら危険度が下がるまでその地域は「平和」になる(クーデター等を起こせなくなる)。

まずヨーロッパ、次にアジア、その後に中東と、核危機の深まりに連れ3段階で米ソともに軍事行動のできない地域が広がり、逆にいうと中南米とアフリカではゲームの最後まで、(主要国を除けば)「クーデターし放題」の状態が続く。

注意したいのは、このゲームのデザイナーはアメリカ人だということだ。だからプレイを進めてゆくと欧州が最も平和で安定し、波乱含みながらアジアがそれに次ぎ、中東は混迷を深め、そのほかの地域は最底辺のカオスを自ずと呈することになる。

よかれ悪しかれ、日本人もまた世界情勢を見るときに、そうした遠近法のグラデーションに慣れてしまって久しい。

2022年2月から文字通り世界を揺るがしているウクライナ戦争は、しかしそうした私たちの尺度とは「逆向きの遠近法」の持ち主が国際社会には存在し、巨大な暴力を振るい得るという現実を明らかにした。

そもそもプーチンがロシアの実権を掌握した契機は1999年、中央アジアを舞台とする第二次チェチェン紛争で、首相として軍事制圧一辺倒の強硬路線を指揮し、当時のエリツィン大統領から後継指名を手にしたことだった。2015年にはシリア内戦に介入して反体制勢力をやはり武力で圧殺し、政府軍の化学兵器使用も後援したとされる。

もちろん主権国家であるウクライナに対する侵略と、チェチェンやシリアで発生した「内戦」への介入とでは、国際法上の位置づけが異なる。

しかしチェチェンやシリアの際にはプーチンの所業にさして関心を持たなかった、多くの欧米人や日本人がウクライナでの戦争発生に慌てふためく理由は、むしろ「先進国」を対象にしてすらアジア周辺部や中東と同様の蛮行が生じうるという、自らの遠近法を掻き乱される事態に遭遇した衝撃の方が大きいだろう。

逆にいうとプーチンや、彼に拍手する戦争支持派のロシア人の頭の中には、おそらく私たちとはまるで異なる遠近法があり、彼らはそれで世界地図を見ている。

「現実」と「見方」が食い違うのなら、間違っているのは常に後者
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