かくして中東における力のバランスは、23年10月以前とは比べものにならないほど変化した。今度の戦争でイスラエルは強くなり、イランは弱くなった。そしてアメリカや周辺のアラブ諸国の出番は減った。

アメリカとその同盟諸国がパレスチナ自治区ガザにおける戦争の終結に向けて一定の道筋をつけたのは事実だが、一時的な停戦や捕虜・人質の交換が和平合意につながる保証はなく、地域の安定を取り戻す道筋も見えない。

局面打開できないアメリカ

イスラエルの戦争は中東地域の連合や同盟構築といった政治目標に資するものではない。同国は「地域の安定=自国の軍事的優越」と信じて疑わないが、それは間違いだ。

イスラエルが軍事的優越を追求し続ける限り、どこかで新たな抵抗勢力が現れ、紛争の火に油を注ぐ。

ハマスの奇襲から今日に至るまで、アメリカは中東地域の政治的・軍事的力学の変化に追い付けず、ろくな役割を果たしていない。1期目のトランプ政権は、地域の安定にはペルシャ湾岸の富裕な君主国を抱き込むのが一番と信じ、「アブラハム合意」で一部湾岸諸国とイスラエルの国交正常化にこぎ着けた。

続くバイデン政権はこれを拡大し、サウジアラビアなども抱き込んで地域を統合し、アジアとヨーロッパを結ぶ貿易回廊を形成しようと考えた。そうすればアラブの経済は成長軌道に乗り、イランの孤立は深まると信じた。

幻想の破綻