「V0」の影──戒厳令の真の動機は

実は、尹前大統領がなぜあの夜に戒厳令を発動したのか、その真の動機について新たな証言が出ている。韓国の保守系紙「中央日報」は12月2日、尹前大統領の側近たちへのインタビュー記事を掲載した。記事中のB氏は「当時の権力内部の状況、政局の状況を知る人々は皆、金建希女史のために戒厳したと思っている」と率直に語っている。

12歳年下の妻に頭が上がらないという噂が絶えなかった尹前大統領。その愛してやまない妻に捜査の手が伸びたことが、最終的に戒厳令を後押ししたという見方だ。尹前大統領は繰り返し「反国家勢力」である共に民主党を戒厳の理由として挙げているが、側近たちの証言は異なる現実を示している。

1年後の韓国──民主主義は守られたが

戒厳令発動から1年。韓国は現職大統領として初めて逮捕・起訴された尹前大統領と、その妻として初めて勾留起訴された金建希という憲政史上前例のない事態を経験した。尹前大統領は今年4月4日に憲法裁判所の弾劾認容決定により罷免され、「内乱首魁」容疑で裁判を受けている。有罪の場合、死刑または無期懲役が科される重罪だ。

李在明大統領は6月4日に就任し、「光の革命」の成果を継承すると宣言した。しかし韓国政治はまだ癒えていない。李大統領が繰り返し強調する「正義ある統合」は、単なるスローガンなのか、それとも本当に実現可能なビジョンなのか。1年が経った今も、内乱が内乱だったのか、戒厳令が正当だったのか、その判断には決着がついていない。尹前大統領の一審判決は来年2月中に出される見通しだ。金建希の判決は1月28日。これらの裁判の結果が、韓国政治の次の章を決定することになるだろう。

さらに12月3日が「国民主権の日」として記憶されるのか、それともただの政治的パフォーマンスとして忘れ去られるのか。李在明大統領が目指す「正義ある統合」が実現するのか、それとも新たな分裂を生むのか。戒厳令から1年、韓国政治はまだ答えを出せていない。

ただ一つ確かなことは、あの夜に市民たちが示した勇気と連帯が、韓国民主主義の新たな礎石になったということだ。李大統領が言うように、「彼らは大きく不義だったが、我々国民はこれ以上なく正義だった」のである。

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