ピアフの私生活は、控え目に言っても波乱の連続だった。恋人を事故で亡くし、最初の結婚生活も破綻し、二人目の夫には莫大な借金を負わせてしまった。恋愛に関する選択の少なくとも一部を後悔することはなかったのか。

ピアフが死の床にあったとき、自分が人生でおこなった選択に満足していたとは想像しづらい。なにしろ、平均寿命より数十年も早く死を迎えることになったのは、これらの選択の多くが原因だったのだ。

「後悔なんてしない」というタトゥーを彫っている人たちはどうか。少し話を聞くと、そのような人たちが精神の内面で経験してきたことは、外に向かって表明していること(いわば演技の内容)とはかならずしも一致していないことがわかる。

アンバー・チェイスは、三五歳で私とビデオ会議で話したとき、「人生で判断を誤る状況はたびたびあります」と語った。

チェイスにとっては、最初の結婚がそうだった。二五歳のときに結婚した男性は「問題の多い人物でした」と振り返る。結婚生活は不幸せなときが多く、ときには波乱に見舞われた。

ある日、夫は突然姿を消した。「飛行機に乗って、いなくなってしまいました......そのまま二週間、音沙汰がありませんでした」。ようやく電話してきた夫は、こう言った。「きみのことはもう愛していない。家には帰らない」。この瞬間、二人の結婚生活が終わった。

もし人生をやり直せるとすれば、チェイスはこの男性とまた結婚するだろうか。そんなことはありえない。しかし、この不幸せな経験から学んだおかげで、いまは別の相手と幸せな結婚生活を送れている。

「後悔なんてしない」という人生哲学の薄っぺらさは、チェイスの肌に彫られたタトゥーにも見て取れる。そこに彫られている言葉は、実は「No Regrets」ではない。「No Ragrets」と彫られている。後悔(Regrets)の二文字目をわざと間違って記してあるのだ。

これは、二〇一三年のコメディ映画『なんちゃって家族』を意識したものだ。正直言うと、大して記憶に残るような映画ではない。

ちんけなマリファナ密売人のデーヴィッド・クラーク(演じるのはジェイソン・サダイキス)は、密売組織への借金を返済するために、ニセの家族(ニセの妻と、ニセのティーンエージャーの子ども二人)とともに行動することになる。ある場面で、デーヴィッドはスコッティPという怪しげな若者と出会う。その若者は、オートバイでやって来てデーヴィッドの「娘」をデートに誘おうとする。

スコッティPは、汚らしい白のタンクトップを着ていて、肌のタトゥーがいくつか見えた。鎖骨に沿って彫られていたのは、アルファベットのブロック体で記された「No Ragrets」という言葉だった。デーヴィッドはスコッティPを座らせて、少し話そうと考えた。まず、数々のタトゥーについて順番に尋ねていった。

デーヴィッド:(「No Ragrets」のタトゥーを指さして)それは?

スコッティP:これ? ぼくの信条なんだ。後悔はしないことにしている。

デーヴィッド:(疑わしそうな表情を浮かべて)本当かい? 後悔することはない?

スコッティP:ないよ......。

デーヴィッド:それは......一文字たりとも?

スコッティP:まったくないよ。

※抜粋第2回:5歳の子どもは後悔しないが、7歳は後悔する...知られざる「後悔」という感情の正体とは?

※抜粋第3回:悲しみ、恥、恐怖、嫌悪感、後悔...負の感情が人生に不可欠な理由と、ポジティブな「後悔」の仕方

『The power of regret 振り返るからこそ、前に進める』

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 池村千秋・訳

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