最初のうちは細切れのエピソードが続く感じだが、導入部の緩さはただの手抜きではない。マルセルと祖母の静かな生活の1コマ1コマから、小さな貝殻の内に秘めた彼らの思いがゆっくりと形を成し始める。窓辺の小さな箱の「庭いじり」と傷ついた虫たちの世話を生きがいに親族を失った悲しみに耐える祖母。どこまでも楽天的で、ポジティブな頑張り屋さんだが、心にぽっかり穴があいたような寂しさを抱えているマルセル。

こうした思いを伝えるのはセリフや説明ではなく、小さなしぐさや巧みに編集された映像だ。CGで動かすのは口だけで、後は手作業のストップモーションアニメなのに、繊細で複雑な感情の機微が切ないほどに伝わってくる。

アニメ映画がこんなふうに胸に刺さったことは一度もない。恋人同士の内輪ネタから生まれたマルセルは、人々の心に明かりをともす、キュートでけなげなキャラに育った。

©2023 The Slate Group

MARCEL THE SHELL WITH SHOES ON

『マルセル 靴をはいた小さな貝』

監督/ディーン・フライシャー・キャンプ

声/ジェニー・スレート(マルセル)、イザベラ・ロッセリーニ(ナナ・コニー)

日本公開は6月30日

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