つまり、「子供から目を離すな」は不可能。それを証明したのが、西田らの科学的アプローチによる実験だ。

2LDKの居住空間を再現した実験室に多数のセンサーを埋め込み、そこで多くの子供たちに自由に過ごさせる。人や物の動きをAI(人工知能)カメラが計測するセンシングと呼ばれる技術で、子供が転ぶスピードを測った結果、「転倒のあっという間は0.5秒」だった。

人間の画像処理システムは、見てから動きだすまでに0.2秒はかかる。スーパーアスリートの反射神経をもってしても、残りの0.3秒で子供の転倒を防ぐのは不可能だろう。

同様の実験で、高さ2メートルの遊具から「落下するあっという間は0.63秒」だった。

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IILLUSTRATION BY YUKAKO NUMAZAWAーNEWSWEEK JAPAN

「ちょっと今日だけ」の危険

だが、悲観する必要はない。「起きている事故のほとんどは、何度も繰り返し起きてきたもの。目新しい事故というものはほぼない」と西田は言う。

そして、同様の事故が多発し、データが蓄積されてきたからこそ、事故予防のニーズが認知され、問題解決のテクノロジー開発につながる。その1つが、歯磨き中に転んでも柄がグニャリと曲がって口内に刺さらない歯ブラシだ。

こうした子供の安全を考慮した新しいテクノロジーを取り入れることが、子供から目を離しても安全に過ごせる環境づくりの要だ。

転倒してもお湯がこぼれ出ない電気ケトル、チャイルドロック機能付きの家電など、選択肢は増えた。自転車用ヘルメットの着用は常識化しつつある。

しかし、テクノロジーが進化しても、利用する側の意識が変わらなければ恩恵にはあずかれない。例えばライフジャケット。川辺の水遊びに必須という感覚は、まだ定着していないだろう。

日本子ども学会常任理事の所真里子は、子供の命を奪う事故は親が普段見ない状況下で起こると指摘する。

「よく転ぶからといって、転倒で亡くなる可能性は低い。事故の頻度と重症度に相関関係はない。子供はめったに起きないことで命を落とす」

特に、「ちょっと今日だけ」というときに限って深刻な事故が起きるという。

自家用車が故障したためチャイルドシートがない実家の車を借りて事故に遭い、子供が外に投げ出される。たまたま通園バッグを身に着けたまま公園で遊び、バッグのひもが滑り台の突起部分に引っ掛かり、首つり状態で亡くなる。

「リスクの高い重点事項について家族が情報共有を行い、しっかりと対策を取っておくことが、悲劇的な事故の予防につながる」と、所は言う。

うちの子に限って悲惨な事故など起こらない──親なら誰でもそう思う。しかし、その思いこそが子供の未来から安全を奪うのかもしれない。

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