しかし、行き着く先があの惨劇だと知っている以上、素直には楽しめない。タランティーノが必ず衝撃度満点の暴力的な見せ場を用意する監督と知っていれば、なおさらだ。

予想どおりと言うべきか、この作品でもクライマックスに向けて暴力性が高まっていく。そして例によって、この監督が暴力や伝統的な男らしさの規範を批判したいのか、祝福する気なのかも分かりにくい。

その後のアメリカ人の人生観に大きな傷痕を残したあの悲惨な現実の事件を、タランティーノはなぜ自分の、架空の物語の背景に使ったのか。答えが見つからないまま、私たちは映画館を出ることになる。

アートは主張ではないと言うこともできる。しかし単に当時の車や衣装、ネオンサインやヒッピーガール、LSDたばこといった小道具を引っ張り出すためにあの事件を利用したのなら、それはあまりに情けない。

ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

監督/クエンティン・タランティーノ

主演/レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット

日本公開は8月30日

©2019 The Slate Group

<本誌2019年9月3日号掲載>

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※9月3日号(8月27日発売)は、「中国電脳攻撃」特集。台湾、香港、チベット......。サイバー空間を思いのままに操り、各地で選挙干渉や情報操作を繰り返す中国。SNSを使った攻撃の手口とは? 次に狙われる標的はどこか? そして、急成長する中国の民間軍事会社とは?

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ニューズウィーク日本版 ベトナム化するイラン戦争
2026年9月1日号(8月25日発売)は「ベトナム化するイラン戦争」特集。

曖昧すぎる目標、敵国の軽視、自国軍事力への過信……長期化・泥沼化したベトナム戦争との共通点

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