Richa Naidu Dominique Patton Alexander Marrow
[ロンドン/パリ 21日 ロイター] - 美容大手各社が、肥満治療薬ブームに伴って拡大する市場の取り込みを狙っている。スイスのスキンケア大手ガルデルマ、ブラジル化粧品グループのナチュラ、仏化粧品大手ロレアルなどは、頬がこけて見える、皮膚がたるむといった悩みを抱える消費者を対象とした治療法の開発や試験を進めている。
各社が狙うのは、「オゼンピック顔」と呼ばれる悩みだ。糖尿病治療薬のオゼンピックが減量効果で広く知られるようになるにつれ、使われ始めた言葉だ。
ただ専門家らは、顔の肉付きが落ちるといった現象は、薬自体の作用というより急激な体重減少に伴うものだと指摘する。
デンマーク製薬大手ノボノルディスクのオゼンピックや「ウゴービ」、米製薬大手イーライ・リリーの「ゼップバウンド」といった、食欲を抑える作用をもつ「GLP-1薬」は、満腹感を維持するホルモンの働きを模倣し、体重減少を促す作用がある。胃腸障害といった副作用のほか、急速な減量によって顔や体の皮膚のたるみをもたらす可能性もある。
米製薬大手ファイザーは、肥満治療薬市場が2030年までに年間売上高1500億ドル(約23兆7000億円)に達すると予測する。減量後に顔のふくらみが失われ、皮膚がたるむといった症状を訴える患者が増えることで、スキンケアや医療美容企業にとっては大きな収益機会を生むと見込まれている。
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の25年の推計によると、こうした臨床治療による収益は今後5年間で約7億ドルから20億ドルへと拡大する見通しだ。
米ワシントンの顔面形成外科医で、ジョージ・ワシントン大学医学部の臨床准教授を務めるマイケル・ソメネク氏は、過去1年でGLP-1薬を使用する患者からの治療依頼が急増したと話す。
「4ー6カ月で大幅に体重が落ちると、顔の立体感に大きな影響が出る可能性がある」とソメネク氏は言う。
<商機を追う企業>
ロレアルが20%を出資するスイスのガルデルマ社は昨年、GLP-1系減量薬に伴う皮膚の変化に対し、既存の治療法がどの程度効果を発揮するかを調べる研究を行った。
「たるみや、ハリの低下、頬がこける、くすみなども問題だ」と、ガルデルマで注入美容部門の世界責任者を務めるアンヌセシル・シュブリエ氏は言う。同社は、体内のコラーゲン生成を促す治療薬「スカルプトラ」や、ヒアルロン酸を主成分とする皮膚注入材(フィラー)「レスチレン」を手がけている。
シュブリエ氏によると、これらの治療はGLP-1使用者向けに特別に承認されたものではない。ただ、ガルデルマは世界中で数万人規模の形成外科医や美容専門家と連携し、減量薬を使用する患者への販売促進を行っているという。
調査会社メディカル・インサイトの24年の報告によると、米国では美容クリニックの53%が、処方減量薬の普及により新規患者が増えると予想した。また43%は、減量薬に伴う顔の変化を改善する治療への需要が高まるとみている。
ロレアルもこの市場への参入を狙っている。同社の最高イノベーション・将来戦略責任者、デルフィーヌ・ビギエオバス氏は、「GLP-1薬の利用者は世界中で相当な人数を占め、ますます重要な消費者となっている」とし、同薬の使用者を対象に、複数の個別試験で検証を行っていると明かした。
ブラジルのナチュラも、既存の製品をGLP-1薬の使用者を対象に直接テストするとともに、新世代の治療法を開発しているという。最高イノベーション・研究開発責任者のマヌエル・クラウス氏は「GLP-1薬はかつてない速さで新たな美容ニーズを生んでいる。同時に、美容の未来はクリームだけでは築けないことも示している」とし、今後はサプリメントや飲用する製品など、異なる形態を組み合わせた開発が進む可能性があると述べた。
<実態はより複雑>
皮膚の変化や顔のボリューム低下には、減量薬以外の要因も関与している可能性がある。
米医療政策団体KFFの分析によると、GLP-1薬は50ー64歳の成人に最も多く利用されている。この年齢層ではすでにコラーゲンの減少が見られ、とりわけ更年期の女性はエストロゲンの分泌も低下する。
北カリフォルニアの医師助手で「R+Hエステティック・メディスン」の共同経営者であるハイジ・ヤング氏は、「現時点では研究データがなく、研究を実施すること自体が難しいだろう。GLP-1薬を使う女性患者のほとんどが閉経移行期、または閉経後だからだ」と語る。
ヤング氏はまた、GLP-1薬を使う人の中には栄養価の高い食事を十分に取らない人もおり、それも肌に影響する可能性があると指摘した。「要因は明らかに複数あり、単純な答えはない」
<製品の効果は>
英キングス・カレッジ・ロンドンの皮膚科医で臨床講師のベイベイ・デュハーパー氏は、「オゼンピック顔」という呼称は誤解を招きかねないと指摘する。
「この薬がコラーゲンを溶かしているわけではない。より緩やかに、持続可能な形で体重を減らせば、見た目の深刻な変化を軽減できる」
専門家によると、一部のスキンケア製品は肌の見た目や質感を改善する可能性はあるものの、根本的な顔のふくらみの減少を完全に解決することはできないという。
英美容ブランド、ライマの美容部門を統括するグレアム・グラス医師は、真皮に届くほど小さな分子を含むクリーム製品もあり「ある程度の効果は期待できる」と語る。
「ただ、顔の靱帯構造そのものを変えることはできない」とグラス氏は言う。「顔の深層にある脂肪組織の位置を戻すことはできない。こうした製品にできることには限界がある」
デュハーパー氏は「美容各社がこぞって、GLP-1薬の利用者向け製品の開発に必死になっている」と語った。注射を用いるフィラーなどの治療では、皮膚の中間部で最も厚い層である真皮に届くため、クリームよりも効果を発揮しやすいという。
「実際に減っているのは真皮の下にある脂肪層だ。塗るタイプのスキンケア製品がこの脂肪層まで到達できることを示す証拠は、これまで存在しない」