<野生動物との共生や命のはかなさ、自然の驚異を野ウサギの生態に関する知識を交えながらつづった…。世界23か国で翻訳された大ベストセラー『野ウサギを育てる 小さな命との奇跡の日々』(光文社)より一部抜粋>
野ウサギは世界中のありとあらゆる地形に適応して、生き延びてきた。荒れ地や沼地、砂漠、大草原(プレーリー)、低木林(シャパラル)、高原、北極圏のツンドラに至るまでだ。ヨーロッパにいるのはヤブノウサギだけ、というわけではないが、ほかの種は多くの場合、さらにレアだ。
たとえば、「ホウキノウサギ」は、スペインのカンタブリア山脈の高地に住んでいる。ホウキノウサギという名は、食べものや住みかにしているホウキ草(エニシダ)にちなんでいる。
「コルシカノウサギ」(別名:アペニンノウサギ)はイタリア本土とシチリア島とコルシカ島に住み、白い斑点のある小さな「イベリアノウサギ」は、スペインとポルトガルで見られる。
中には、極暑や極寒の気候に耐えられるよう進化した種もいる。砂漠に住む野ウサギは、海水の約2倍の塩分を持つ水を飲める。身体の大きさはヤブノウサギの3分の1ほどで、新陳代謝率がはるかに低いので、体温を下げられる。また、耳を使って身体の熱を放散し、ちょっとした日陰をつくることもできる。
「ホッキョクウサギ」は気温がマイナス30、40度でも生き延び、雪を食べて水分をとる。季節によって茶色から白へと毛の色を変えるのは、近縁種の「カンジキウサギ」や、「Lepus timidus(臆病なウサギ)」という絶妙な学名を持つ「ユキウサギ」も同じだ。
ユキウサギはロシア、シベリア、スコットランド、北欧諸国のツンドラや針葉樹林帯(タイガ)のただ中に住んでいる。野ウサギの目は側面についているから、ほぼ360度、あたりを見渡せる。
こうした適応能力を別にすれば、野ウサギは極めてか弱い生きものだ。生後3〜4週間は、危険から逃れられない。攻撃者より速く走ることはできないから、隠れるかじっとフリーズするかで、見つからないようにするしかない。そういうわけで、人間は、自然環境やほかの動物よりも野ウサギにとっての大きな脅威だ。
野ウサギは危険に出くわすと、まずは本能的に安全な場所にうずくまって隠れるから、農業機械にたびたび踏みつぶされ、ずたずたに引き裂かれる。生まれた野ウサギのうち、4分の1ほどしか大人になれないし、それよりずっと少ない場合もある。