Kentaro Sugiyama

[東京 19日 ロイター] - 日本経済の成長持続性を見極める上でカギとなる2027年春闘。賃上げ率(定期昇給込み)は4%台後半と予想する向きが多いが、エコノミストの間でも微妙に温度差があることに気づく。就職氷河期を経験した「デフレ世代」が慎重姿勢になりがちな一方、若手の「インフレ世代」からはやや強気な声が聞かれる。それぞれが社会人となった時代の違いに加え、人工知能(AI)などの影響をどう見積もるかも、その温度差につながっている可能性がある。

「私はインフレ世代ですので」。20代半ばの若手エコノミスト、SMBC日興証券の宮田皓生氏はこう語る。賃上げ動向の見通しはチーム内でもやや温度差があり、上の世代ほど慎重な見方が多いと感じているという。来年の春闘に関する個人的な見立てでは、今年並みの3%台半ばのベースアップ率は維持される可能性が高く、さらに上振れする余地もあるとみる。定昇込みの賃上げ率が5%を上回るのも「十分にあり得る」とみる。

人手不足が構造的に続く中、企業は物価上昇を背景に価格転嫁を進め、名目収益を拡大させている。労働者も実質賃金の目減りに敏感になっており、賃上げ圧力はなお強いという。

一方、氷河期世代と重なるシニアやチーフクラスのエコノミストには慎重な見方が少なくない。企業が人材の確保やつなぎ止めのために賃上げせざるを得ない環境にあるという状況認識は共有しつつも、賃上げの継続はそれほど簡単ではないとの感覚もにじむ。デフレ下で社会人生活を送り、物価も賃金も上がらない時代を経験したことが影響していそうだ。

別の30代前半の民間エコノミストは「氷河期世代が悲観的になりがちなのは仕方がない面もあるのでは。エコノミストを始めてからずっと日本経済はほぼ成長していなかった。急に成長する絵を描けと言われても、難しい気もする」と話す。一方、氷河期世代の上の世代にあたる、「バブル期」を経験した現在役員クラスとなったエコノミストからは「若手よりもっと強気に感じる」こともあるという。

<世代効果>

一口に「就職氷河期世代」といっても、定義には幅がある。内閣府の資料では、1990年代の成長鈍化の影響を受けた1974年から1983年生まれを指すことが多い。政府の就職氷河期世代支援策は、おおむね1993─2004年に学校卒業期を迎えた世代としている。

自身も40代後半で氷河期世代にあたり、同世代を分析した著作がある日本総研の下田裕介・主任研究員は、デフレ期を社会人として過ごした世代には「物価も賃金もなかなか上がらない」というイメージが強いと指摘。一方、デフレを知らない若い世代は、物価や賃金の上昇が特別なものではないと受け止めやすいという。

統計学やマーケティング、社会学などで使われる「世代効果」という分析用語がある。生まれた世代が同じであることで共通して表れる特有の価値観や行動パターンのことだ。下田氏は、エコノミストの予測はあくまでデータに基づいて行うものだが、自身が経験した経済・社会環境を完全に切り離して考えることは難しいと指摘する。

40代前半で氷河期世代のやや下の世代にあたる大和証券の末広徹チーフエコノミストは、就職は比較的しやすかったが、賃金は低水準で抑えられていたと指摘。多くの人にとって賃上げが当たり前との感覚が広がり始めたのは、アベノミクス以降の「官製春闘」が定着してからであり、賃金観については、世代で切り分けることは容易ではないと話す。

<AIがもたらす変化は>

社会人となった時代や経験の違いは、社会の変化をどう評価するかにも影響する。代表的なのはAIの捉え方だ。日本ではAI需要を背景とした半導体需要の拡大やデータセンターの整備などが注目されているが、中期的には人々の働き方を変える力を持つ。

大和証の末広氏は、経験や専門知識を持つ人材ほどAIを活用しやすく、企業は従来以上に高度な知識や分析力を持つ人材を求めるようになるとの見方を示す。その場合、情報収集やデータ整理といった業務の一部はAIに代替されても、深い分析や独自の視点を示せるシニア人材の価値はむしろ高まる可能性があるという。

一方、若手の「下積み」的な業務が減り、経験を積む機会が失われる可能性もある。一般的に初任給が引き上げられていく傾向にある中、高い賃金水準に見合う人材育成をどう進めるかも企業の課題となりそうだ。

労働組合の全国中央組織、連合は27年春闘に向けた基本構想を22日に発表する。26年の賃上げ率は5.01%と3年連続で5%台を確保したが、27年は物価高が続く中、一部の中小企業の息切れなども予想され、4%台後半で着地するとの見方が多い。

物価も賃金も上がらない時代を知る「デフレ世代」と、それをそれほど知らない「インフレ世代」。来年の春闘は、どちらの見立てに軍配が上がるのか試す場にもなるかもしれない。

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