Alun John Dhara Ranasinghe
[ロンドン 16日 ロイター] - 欧州国債市場で今月起きた大幅な売りが浮き彫りにしたのは、ヘッジファンドの影響力拡大と、それによってシステム上重要なこの市場の足場が一段と脆弱になっている実態だった。規制当局もこうしたリスクを注視している。
表面的には、フランスの10年国債利回りが24年ぶりの高水準まで上昇(価格が下落)した理由は明確だった。具体的には政府債務の増加、エネルギー価格高騰を背景とするインフレ圧力、そして世界的なデータセンター建設ブームによる経済成長加速が資金需要を押し上げたことが挙げられる。
しかし一部の投資家は、利回り上昇の規模とスピードからみて、ヘッジファンドによるポジション解消が市場変動を増幅させた可能性があると指摘する。
フランス国債については、はっきりしたきっかけがないまま1日で10ベーシスポイント(bp)を超える利回り上昇が発生したほか、ドイツ国債に対する上乗せ利回り(スプレッド)は2日間で約25bp拡大。ユーロ圏債務危機以来最大の上昇幅となった。
欧州中央銀行(ECB)の推計に基づくと、約13兆ドル規模の欧州国債市場において、2020年時点で約30%だったヘッジファンドの取引シェアは現在半分超を占めている。国際通貨基金(IMF)も、ヘッジファンドの国債エクスポージャーが22年以降で2倍余りに膨らんだと分析している。
ピクテ・ウェルス・マネジメントの債券戦略責任者、ローレリーヌ・ルノー・シャトラン氏は「ヘッジファンド業界は急速に拡大した。それによって債券市場の変動性が高まり、実質的な売り材料が乏しかったにもかかわらず、今回のフランス国債の価格急落がこれほど深刻化した理由だったのではないか」と語った。
<値動きを増幅も>
IMFによると、ヘッジファンドは借入金によるレバレッジやデリバティブを含め、総額40兆ドル超の資産を運用している。投資内容の詳細を公開することは少なく、価格上昇だけでなく下落にも賭ける。
ヘッジファンドの国債取引が重要視されるのは、その取引行動が国債利回りを左右し得るためだ。国債利回りは政府の資金調達コストの指標であり、その変動は企業や家計の借入コストにも影響する。
IMFは今月に「ヘッジファンドの取引活動拡大は、ストレス局面において価格のゆがみや流動性不足を増幅させる恐れがある」と警告した。背景として、借入依存度の高さや、多くのファンドが同じ取引戦略を取る「混雑した取引(クラウデッド・トレード)」に言及している。
アーレン・キャピタル・マネジメントのマネジングパートナー、ブルーノ・シュネラー氏の話では、ヘッジファンドに人気のある戦略の一部は価格やボラティリティーの変化に極めて敏感だ。その代表例が「キャッシュ・フューチャーズ・ベーシス取引」や「レバレッジド・キャリートレード」で、ベーシス取引では現物債と先物の小さな価格差から利益を狙い、キャリートレードでは低金利通貨で資金調達して他資産へ投資する。
シュネラー氏は「市場環境が変化すると投資家は急速なポジション縮小を迫られる可能性があり、その結果、市場の動きが自己増幅的になる恐れがある」と説明した。
もっとも同氏は、今回の変動を全てヘッジファンドのせいにするべきではないともくぎを刺し、特にフランス国債の売りに関しては固有の要因が重要だったとの見方を示した。実際同国では、27年の大統領選を見据えた政治的駆け引きによって、巨額財政赤字の削減努力が妨げられるとの懸念が市場を不安定にしている。
<存在感増した背景>
オルタナティブ投資運用協会(AIMA)の政府渉外責任者、ジリー・クロル氏は、ヘッジファンドは国債市場における最も重要な流動性供給源の一つだと強調。「最近の市場動向について、特定の市場参加者の役割を逸話的な証拠だけで断定するのは適切ではない」と述べた。
ヘッジファンドが存在感を高めた背景には、従来の買い手が市場から後退している事情がある。中央銀行は保有資産を縮小し、年金制度改革により国債需要が減少した上に、規制強化により銀行も以前ほど国債を保有できなくなっている。
つまり政府債務が増加する時代において、ヘッジファンドの参加は市場機能を支える役割を果たし、活発な売買によって流動性向上にも寄与している構図だ。
フィデリティ・インターナショナルの債券部門最高投資責任者(CIO)、マリオン・ルモルヘデック氏は「誰もがヘッジファンドの果たす役割を理解している」と話す。
とはいえ人気の取引戦略は同質化しやすく、借入金によって支えられている。またヘッジファンドは短期的な収益を追求するため、市場が不利な方向へ動くと一斉に撤退し、流動性を枯渇させるリスクがある。
ルモルヘデック氏は「そのような状況ではヘッジファンドが市場機能を著しく損なう。10月初旬の流動性低下については、その説明の100%がヘッジファンドにあると考えている」と語った。
<当局も注視>
今月初旬には短期国債の値動きが特に荒かった。フランス2年国債利回りは急上昇する一方、安全資産需要を受けてドイツ2年国債利回りは低下。その結果、両国の利回り格差は1日で21bp拡大し、12年以来最大となった。
ヘッジファンドは資金調達の際、フランス国債を担保として利用することが多い。フランス銀行(中央銀行)によれば、ユーロ圏国債を担保とするレポ市場での借入総額約2500億ユーロのうち、約1000億ユーロをフランス国債が占めている。
イングランド銀行(英中央銀行)もまた、金融機関にとって重要な資金調達手段であるレポ市場を注視している。同中銀の推計では、英国債レポ市場における純借入約2000億ポンドのうち、850億ポンドをヘッジファンドが占める。
欧州のある大手債券投資家はロイターに、規制当局との会合ではヘッジファンドの役割が主要議題の一つになっていると明かした。
ピクテのルノー・シャトラン氏が触れたのは、今月初旬のフランス国債市場の流動性が08年の金融危機以降で最悪だった点だ。流動性が低下すると取引が難しくなり、仲介業者の手数料も上昇する。極端な場合には価格提示そのものが行われなくなり、市場機能の停止につながりかねない。
ただし、IMFが13日に公表した別の報告書では、最近のストレスにもかかわらず市場全体は良好に機能していると評価された。また、ロイターが取材した6人の運用担当者はいずれも、今回の変動は自身の投資戦略に大きな影響を与えておらず、むしろ投資機会を生んだ面もあると述べた。
スタンダード・ライフの最高クレジット責任者、ミケラ・バリレッティ氏は「ボラティリティーは時として好機になる。フランス国債は信用リスクに比べて割安になった。慎重に見ているが、売りが加速した局面では実際に保有を少し増やした」と語った。