<「人道」から「開発」へ。国際難民制度が行き詰まる本当の理由について>
岐路に立つ国際難民制度
世界の難民数は2024年末時点で約4270万人に達し、第二次世界大戦後で最悪の数字を更新した。これは、日本の人口の3分の1に匹敵する規模である。
国籍別では、シリア(約600万人)、アフガニスタン(約580万人)、ウクライナ(約500万人)、南スーダン(約230万人)、スーダン(約210万人)が上位を占め、いずれも断続的な武力衝突や政情不安に起因する。
ただし、この問題を単なる数値の多寡だけで片付けることはできない。国際社会が直面している難民問題の構造的欠陥に鋭く切り込んだのが、小俣直彦著『世界難民危機』(岩波書店、2026年)である。
国連機関やNGOでアフリカの開発・難民支援に携わった経験を有し、オックスフォード大学難民研究学科の准教授として教鞭を執っている著者は、戦後長きにわたり難民を救ってきた国際的な保護システムが、今や「重大な分岐点に立たされている」と警鐘を鳴らす。
折しも今年は、国連で「難民の地位に関する条約」が採択されてから75年目。これほどの時間をかけ、国際社会が知恵を絞ってきたにもかかわらず、なぜ難民問題は解決しないのか。本書を手がかりに、その構造的な要因を紐解いてみたい。
機能不全に陥った3つの解決策
本書によると、国際難民制度は「紛争や迫害から逃れて他国に避難した人々(難民)の保護と支援に関わる国際的な枠組み」と定義される。
もともとは第二次世界大戦後にヨーロッパに滞留していた難民を救済するために設計された。当時から、難民問題を解決する手段として3つのスキームがあるとされてきたが、現在そのすべてが機能不全に陥っている。
①本国帰還
1つ目は、難民が自分の意思で自国に帰るという「本国帰還」である。これは、現在、国際社会が「最善の」策とする手段でもある。しかし、実際には自国内の政情不安や武力衝突が続き、安全な帰還の目途が立たないことがほとんどだ。
また、難民の大半は20年以上も避難先で過ごしている。これほど長い年月が経つと、故郷が昔の姿のまま残っていることはまずない。さらに、避難生活が長くなるにつれて、帰国への意欲は減退せざるを得ず、第二世代や第三世代が両親や祖父母と同じ思いを故郷に抱けるかも定かではない。