「難民の自立」がはらむリスク

開発主導アプローチにおいて、最も重視されるキーワードが「難民の自立」である。難民の経済的なポテンシャルを引き出し、援助依存から脱却させるという思想は、一見すると合理的である。

しかし本書は、ここにも慎重な見方を示す。難民を「負担」ではなく、地域経済に貢献する「利益」と捉えるロジックは、裏を返せば、難民の市場価値を基準とした「難民の商品化」というリスクをはらむからだ。

難民のなかには、過酷な経験から深刻なトラウマを抱え、受け入れ国の経済活動に参加できない者も多い。そのようななか、経済的な価値を基準に難民に保護を与えるかどうかを決めるような政策は本当に正しいのか。また、仮に雇用機会が与えられたとしても、難民を単なる「安価な労働力」として消費してしまうことの倫理性も問われる。

国際難民制度が行き詰まっている本当の理由は、戦後につくられた枠組みが現代の難民を取り巻く状況に対応できていない点、そして解決を試みるアプローチすらも経済合理主義に回収されかけている点にある。

私たちは、単なる同情や安易な経済合理主義に逃げることなく、国際難民制度の構造的欠陥という問題の「本質」に、今一度目を向ける必要がある。

 

土田千愛 (Chiaki Tsuchida)
神戸大学大学院国際文化学研究科講師。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(国際貢献)。専門は国際関係論、難民研究。サントリー文化財団2020年度「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」に採択。その成果として『日本の難民保護――出入国管理政策の戦後史』(単著、慶應義塾大学出版会、2024年)を上梓。本書にて、2024年度国際開発学会奨励賞、第9回吉野作造研究賞優秀賞を受賞。

 
世界難民危機

 『世界難民危機』

 小俣直彦[著]

 岩波書店[刊]

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