<「天才政治家」ネタニヤフに一歩リードする元軍人アイゼンコット。政権交代の鍵を握る「アラブ票」と「61議席」という難題について>
イスラエルがアメリカと共に「文明」を守る戦いの先頭に立った──。9月下旬、国連総会の壇上に立ったイスラエルのネタニヤフ首相は、いつもと変わらぬ自信に満ちていた。
かつて国連大使として頭角を現し、イスラエル政治の頂点に上り詰めた「天才政治家」にとって、今回が最後の国連演説になるのか。その運命を左右するのが、10月27日の総選挙だ。
ネタニヤフは今、苦しい選挙戦を強いられている。首相に就任すればイスラエル史上初の中東系ユダヤ人「ミズラヒ」出身となる、ガディ・アイゼンコットに一歩リードを許す。
お世辞にもカリスマ性があるとは言えない66歳の元軍人アイゼンコットは他野党からの合流要請に応じることもなく、自ら率いる政党「ヤシャル」への支持を着実に固めてきた。
首相経験がないことも分断が深まり閉塞感が社会を覆うイスラエルでは、むしろ「新しさ」になる。元参謀総長という全国的な知名度を生かし、ネタニヤフ率いるリクードの重要な支持基盤だったミズラヒ層にも食い込もうとしている。
もっともイスラエルでは、参謀総長経験者が政界入りすると、パレスチナとの和平を求める左派的立場に立つことが多かった。
しかし、2023年10月7日のハマスによる攻撃以降、「パレスチナ国家」はユダヤ系有権者にとって極めてセンシティブな言葉になっている。
アイゼンコットもパレスチナ国家には否定的な見方を示しつつ、入植地拡大を訴えるわけでもない。和平を正面から訴えれば、ネタニヤフ陣営に攻撃材料を与えかねないからだ。形勢逆転を許さないため、慎重な戦略に徹する。