Ben Welsh Simon Jessop Kate Abnett

[ロンドン 26日 ロイター] - この夏、欧州全土で干ばつが広がり、山火事が猛威を振るう中、異常な暑さは海にも及んだ。

ロイターが海面水温の記録を分析したところ、欧州の海域では、1982年に衛星センサーによる信頼性の高いデータの収集が開始されて以来、最も高温の夏となった。

英仏海峡から地中海まで、各地で記録が次々と更新された。8月5日、スペインのマヨルカ島沖のブイは摂氏33.02度を観測し、スペイン港湾当局のブイ観測網で史上最高となった。

科学者らは、温室効果ガスの排出で世界の気温が上昇する中、今年のような海洋熱波がより頻繁に、強く、広範囲で発生するようになっていると警告する。世界の海洋は余剰熱の大半を吸収し、陸地や大気よりも長く保持する。

学術文献の精査や、10人を超える研究者、漁業関係者、アナリストらへの取材によると、こうした変化が海洋生態系を変化させ、欧州の一部漁業と、それに頼る人々に壊滅的な影響をもたらしている。スペインやイングランド南部の一部沿岸地域を何世代にもわたり支えてきた種が姿を消し、新たに生息に適した海域となった場所には、これまで少なかった種が急増している。

「驚くべきは、これが起きる速さだ」。フランス国立科学研究センター(CNRS)の上級研究員ジャン・ピエール・ガチューゾ氏は、欧州の海の温暖化についてこう述べた。同氏は「多くの場所で、ほぼ毎日のように記録が更新されている」と語った。

欧州の海域全体では、6月から8月までの平均水温は21.6度となり、データが存在する過去45年間で最高となった。

平年の水温から最も外れた地域の一つが、フランスとスペインの大西洋沿岸に位置するビスケー湾だ。

ガリシアのオルテガル岬からブルターニュ南部のポワント・ド・ペンマルシュまで広がるこの湾は、従来は水温が低いことで知られていたが、6月から8月にかけての平均水温は21.4度を記録し、1991年から2020年までの平均値を2.4度以上、上回った。 米国海洋大気庁(NOAA)の観測データによると、8月13日には23.2度を記録し、衛星観測史上最高値を更新した。

科学者らは、ある海域の過去の平年値を大幅に上回る水温が5日以上続く現象を海洋熱波と定義している。1980年代のビスケー湾における熱波の日数は年間数日程度だった。ロイターの分析によると、今年は8月末までに186日を記録し、4日に3日以上の割合となった。

<消えゆく海藻、ロブスター、ザリガニ>

ビスケー湾の冷たい海は、地中海沿岸の暑さを逃れるスペイン人に長く愛され、ヘミングウェーの1926年の小説「日はまた昇る」でも描かれた。同作では主人公が、サンセバスチャンの海岸で数週間の放蕩(ほうとう)生活の後に立ち直る。

北部アストゥリアス州にあるオビエド大学の海洋生態学教授、ホセ・マヌエル・リコ・オルダス氏は「今、冷たい水で泳ぎたいなら、スペイン最北西端のガリシア州の最も西まで行く必要がある」と語った。

ガリシア州は、夏の間強い風が温かい表層水を沿岸から遠ざけ、それに代わって冷たい深層水が上昇してくる「湧昇(ゆうしょう)」と呼ばれる現象の恩恵を受けている。

オルダス氏は子供の頃からこの湾で夏を過ごしており、現在はその変化を研究している。

当時は、この湾に広大な大型海藻(ケルプ)の藻場が広がり、この地域の小規模漁業を支える数十種の生物にとって不可欠な餌や隠れが、産卵・育成場所を提供していた。しかしオルダス氏は、2010年以降、起伏に富んだアストゥリアス沿岸でのサンプリング結果に基づくと、海藻群落の約95%が消失したと推定。減少の主な原因は気候変動にあると指摘する。

海藻が生き残るには、通常20度以下の冷たい水が必要だ。同氏によれば、かつて同湾でそれ以上の水温になることは極めてまれだったという。「いまは逆だ」

同氏によると、魚による過剰な食害も、海藻減少に拍車をかけている。高水温で繁栄するタイ科の魚、通称「ドリームフィッシュ」による被害はとりわけ大きい。

影響は顕著だ。オルダス氏は「ロブスターやザリガニ、ウニなど、良好な状態の海藻の藻場に生息する多くの種が見られなくなっている」と述べた。

危機感を抱いた漁業者らは、科学者や環境活動家と連携し、研究室で育てた苗を植え付けることで藻場の再生を試みている。

ガリシア州の地元漁業組合長のレイリス・ゴンサレス氏は最近、自身が遊漁船として使う船に、そうしたプロジェクトのメンバーを乗せ、リベイラ港から沖合に向かった。一行は海藻の幼体を付着させた小石を箱いっぱいに持ち込み、波立つ海に投げ入れた。

気候変動は、ゴンサレス氏の地域社会を何世代にもわたり支えてきた生活様式を脅かしていると同氏は言う。同氏の家族は1世紀以上にわたってウニ漁に潜り、アサリを採取してきた。だが現在、繰り返される熱波がこうした資源に打撃を与えていると同氏は述べた。

同海域には、南方の温暖な地域からカツオノエボシやモンガラカワハギなど、地元の魚や甲殻類を捕食する生物も流入している。

ゴンサレス氏は「アサリの生産量が極めて落ち込んだ年があったが、種の放流に取り組んだことで、アサリは徐々に環境に適応していった」と語った。

同氏は、海底再生の取り組みが海藻の藻場にも同様の効果をもたらすことを期待している。

海藻類の消失は、漁業者が依存するウニなどの減少につながる可能性があるとし、「そうなったら、漁業組合としてのわれわれの存在は成り立たなくなる」と語った。

<タコの黙示録>

研究者らによると、欧州の他の海域でも、紅海などからの非在来種がスエズ運河を通って地中海に侵入し、在来種を駆逐し、食物連鎖を変え、漁業を脅かしているという。11カ国の科学者による調査に基づくキプロス科学・文学・芸術アカデミーの最近の報告書によると、地中海には計1000種以上の外来種が存在する。

水温上昇に比較的うまく適応している在来種もいる。

8月には大量のクラゲの群れが冷却システムを詰まらせ、フランスのグラブリーヌの原子炉が停止した。これは2年連続の事態だった。同発電所は北フランスにあり、北海に接続する運河から冷却水を取り込んでいる。

イングランド南岸の漁業者らは、マダコの水揚げ急増を報告している。英国の海洋管理機関(MMO)がまとめた統計によると、2025年の漁獲量は約2600トン、26年はこれまでに3000トンを超えている。25年より前の年間水揚げ量は30トン未満程度だった。

英プリマスにある英国海洋生物学協会(MBA)の上席研究員ブライス・スチュワート氏によると、タコの幼生はチャネル諸島やブルターニュ地方、さらにその南方にある産卵場から海流に乗って英国の海域へと運ばれてくる。

以前は水温の低さから、多くが生き残れなかった。しかしロイターの分析によると、イギリス海峡では22年以降、海洋熱波の状態が年平均で約6カ月続き、累計日数は900日を超えた。

スチュワート氏は「今やタコは英国の海域でかなり活発に繁殖している」と述べた。

デボン州南部の海辺の町ブリクサムで自身の名を冠した水産卸売業を営むイアン・パークス氏にとって、タコの大量発生は思わぬ追い風となっている。

かつては希少種だったタコには南ヨーロッパに安定した市場があり、漁獲枠も設けられていないと彼は語った。「ある週には200トンの水揚げがあった」

ただ、地元のロブスターやカニ、ホタテなどを食べるタコの急増がもたらすのは、恩恵だけではない。

サウスデボン・アンド・チャネル貝漁業者組合の事務局長ベシュリー・プール氏によると、組合員にとって26年は「タコの黙示録」となった。最近の漁では終日操業してカニが1匹しか獲れなかったという。

MBAの試算によると、25年1月から9月にかけてのタコの水揚げ額が約1200万ポンド(約25億円)であるのに対し、甲殻類の漁獲減による被害は約1000万ポンドに上る可能性がある。

タコの漁獲増による利益は均等には行き渡っていない。一部の甲殻類漁業者はタコ漁へと転換したが、多くは必要な設備を持っていないとプール氏は話す。同組合に所属する約90隻の漁船のうち、過去12カ月で4隻が廃業に追い込まれた。

スチュワート氏は、変化の予測が不可能なため適応が困難であると付け加えた。

同氏は「来年もタコはここにいるだろうか」と問いかけた。「もしカニやロブスターを食べ尽くした後、タコが死滅してしまったら、われわれはどうすればよいのだろうか」。

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