Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 1日 ロイター] - 高市早苗首相がリフレ論者とのイメージ払拭に躍起だ。首相官邸が主導し、関係閣僚が発信の強化に努めるほか、担当省庁は市場関係者や報道機関向けに財政政策への理解を求める「根回し」も始めている。ただ、市場は口頭のアピールではなく「結果」を注視する。政府関係者は来年度予算編成に向け、市場の信認を得るための二つの具体策を明かした。

<「高市首相はリフレ論者ではない」>

「高市内閣の経済財政運営について説明と意見交換がしたい」。政府関係者は夏以降、金融機関などの関係者や一部の報道機関に、相次いでこう打診した。「成長投資」や「危機管理投資」をはじめとする高市氏肝いりの政策が、市場の不信を招いているとの危機感があるからだ。担当者らは主に7月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に基づき、政権が決して財政の持続可能性を軽んじているわけではないと理解を求めている。

関係閣僚もこうした発信に取り組んでいる。片山さつき財務相は9月29日の閣議後会見で、同25日のベセント米財務長官との電話会談に触れ、「高市首相はリフレ論者ではない」との考えを先方に伝えたことを明らかにした。

骨太の方針の策定を直接担った城内実経済財政担当相も同30日の会見で「アベノミクスの意味でのリフレ局面は終わった」と強調。日銀の国債保有残高は着実に縮小しており、高市政権が進める「責任ある積極財政」は供給能力の強化に力点を置いて強い経済の構築、財政の持続可能性を一体的に実現するものだとした上で、「大規模な金融緩和でデフレから抜け出すリフレ政策とはまったく異なる」と述べた。金融市場関係者にこうした政権の考え方を説明していきたいとも語った。

高市氏は先の内閣改造に伴う各閣僚への指示書で、片山氏と城内氏に対し「責任ある積極財政」の考え方に基づく政権の経済財政運営について、「コミュニケーションの強化を通じ、市場の信認を確保」していくため、国民や国内外の市場関係者に骨太の方針の内容を含め、「透明性高く、一貫した説明」をするよう注文を付けている。

<「正しい政府方針を伝える必要」>

事情を知る政府関係者によると、市場関係者や報道機関の理解を得るための「根回し」は、官邸が主導して計画したものだという。背景には市場の大きな混乱を招いた「骨太ショック」の教訓や、自国の金利上昇に気を揉む米国の存在があると別の関係者は解説した。片山氏も9月29日配信のインターネット番組の中で、ベセント氏から「(リフレ論者ではないとの高市氏の考えが)外から見えなきゃダメだ」と言われたことを明かしている。

ただ、口頭のアピールだけでは市場に響かない。前出とは別の政府関係者はロイターの取材に、政権が市場の信認を得るためには二つの具体策が必要になるとの認識を示した。

一つは、来年度予算案の編成過程で、各省が概算要求で「事項要求」とした費目の規模をなるべく絞り込むことだ。財務省は9月、各省からの要求総額が一般会計で143兆円規模に達したと発表。必要金額を示さない「事項要求」を加えれば、今後の予算案策定の過程で規模はさらに膨らむ見通しだ。

同関係者は予算案が概算要求に比べて大きく膨らんだ場合、市場は政権の財政運営への疑問を深めると指摘。「逆に言えば予算規模が143兆円からそこまで増えなければ、市場の信認確保という意味では第一歩となるはずだ」とも語った。

もう一つは、政府方針の積極的な発信だ。「骨太ショック」は策定段階の方針案が報じられたことに端を発した。政府側が「最終版ではない骨太方針でコメントするのは難しい」などと十分な説明を避け、火消しに走ったのも市場の不信感を強めたとされる。

前出の関係者は、予算編成過程で出てくる報道や与党内の動きについて「誤解を招くものがあれば積極的に否定し、正しい政府方針を伝える必要がある」と話す。高市氏が指示書の中で透明性の高い一貫した説明を強調したことからも、同関係者はこれまで以上に「ワンボイス」の発信が重要になるとの認識を示した。

<「具体的な数字で示すべきだ」>

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、金融市場は高市政権の財政政策に対して「誤解をしているわけではない」との見方を示す。市場に対する丁寧な説明は「あまり問題解決にならない」という。その上で、市場の警戒を解くには、言葉でなく「財政規模の縮小を具体的な数字で示すべきだ」と強調した。

また、市場から警戒されている要因を「政権自身が分析した上で対応する必要がある」とも指摘。来年度予算案は概算要求ベースで前年度より24.4兆円程度増える見通しだと述べ、「これに消費減税が加わるので財政赤字は30兆円程度膨らむだろう。来年度予算案の事項要求を抑えることは重要だ」と語った。その場しのぎの説明は市場の信認を得るには効果が薄いとし、「市場は財政赤字の拡大による国債の需給をみている」とも釘を刺した。

財政政策を担う内閣府幹部はロイターに対し、高市氏が市場とのコミュニケーション強化に力を入れているのは事実だと述べた。政策実現のためには「金融環境や物価動向を踏まえつつ、民間から投資を引き出せる基盤をつくることが重要だ」とし、そのためにも市場の理解は不可欠だとの認識を示した。

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)

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