Olivia Le Poidevin
[ジュネーブ 15日 ロイター] - 世界貿易機関(WTO)は15日、年次報告書を公表し、加盟国に世界の貿易ルールの改革を促した。改革が進まなければ世界経済の分断が進み、生産が大幅に縮小し、貧困国が最も大きな打撃を受ける恐れがあると警鐘を鳴らした。
既存のルールは経済勢力図の変化や産業政策の台頭、デジタル貿易、大国間の政治的緊張の高まりに十分対応できていないと指摘した。
WTO加盟国は3月にカメルーンで開いた閣僚会議で改革案の合意に至らなかった。その後、意思決定プロセスや紛争処理制度、補助金や国家介入を巡る課題について、ジュネーブで協議を再開している。
世界が地政学的に対立するブロックに分断されるシナリオをWTOのエコノミストが試算したところ、2050年の世界の国内総生産(GDP)は分断が起きない場合に比べ5.1%、輸出は18.6%下回るとの結果が出た。さらに深刻なシナリオとして、 多国間協力が崩壊し、個別の自由貿易協定が乱立した場合、世界のGDPは6.9%、輸出は27%近く減少する。
一方、多国間協力の強化によって世界のGDPは2.9%、輸出は18%近く増加する可能性があるという。
<岐路に立つ貿易体制>
WTOのチーフエコノミスト、ロブ・スタイガー氏はロイターに対し、貿易体制は「重大な岐路」にあると述べた。経済力の分散、経済への国家介入の拡大、デジタル化とグローバルバリューチェーンによる貿易形態の変化、政治的摩擦の高まりという報告書が挙げた四つの主要課題に言及した。
スタイガー氏は「ルールにはひずみが生じており、実際に影響が出ている。世界規模の多国間体制が崩れた場合、どの程度の損失が生じるかを今回のシナリオは示している。その損失は極めて大きい」と述べた。
地域貿易協定や有志国による取り組みは多国間体制の強化につながる可能性がある一方、ブロック間の対立に発展すれば、多国間体制を損ないかねないと警告した。
世界の製品貿易の約72%には今もWTOの最恵国待遇に基づく関税が適用されているが、22年の約80%から低下している。スタイガー氏はこれを「懸念すべき傾向」と指摘し、多国間貿易体制が徐々に弱まるリスクを浮き彫りにしていると述べた。