楠木:そうなんです。例えば2時間×24回の講義であれば、全体を通した大きな流れを作らなければなりません。この「流れ」を作る作業が、一回一回の講義の中身以上に重要なんです。
本を書く仕事にしても、部品がうまくつながって動き出し、自然な流れを作るまで「ちょっと置いておく」という間が大切です。すぐにアウトプットせず、だからといってストレージにしまい込むのでもなく、中途半端な状態のまま頭の片隅で「放置」しておく。これには時間と心の余裕が不可欠です。
山口:時間に余裕がある、つまり「寝かす」というのはとても重要だと思います。これは前著の『コンテキスト・リーダーシップ』でも書いたことですが、あるテーマについて本が書けて、それが世の中に受け入れられるには、「タイミング」というものが大事なのではないかと思います。
前著の中では「カイロス=時機」という言葉で整理したことですが、時間に余裕がないと「機が熟す」のを待てない。これは経営でいうところの「オプション・バリュー」を持てないということですね。そういう時機を待たずに力づくで書こうとしても、結局はうまくまとまらないように思います。
楠木:僕は本については、なるべく「締め切り」を設定したくない。「いつまでにできますか?」と聞かれても、「機が熟した時です」と答えています。
山口:先ほどのタグ付けと同じことですが、僕の場合は、テーマごとに段ボールの箱があって、その箱の中に関連しそうな情報をどんどん放り入れている感じなんです。
その箱の中には、数十年前に仕込んだ、例えば学生時代にテレビで見た情報も入っていれば、つい先日、雑誌で読んだ情報も入っている。それらの情報は、最初はバラバラに散らばっているわけですが、それらがつながっていって一つの体系になっていく感覚があります。
僕にとって「寝かす」というのは、段ボール箱に入っている情報がお互いにつながりあっていくプロセスのイメージですね。編集工学を提唱された松岡正剛さんは「情報はお互いにつながりたがっている」といった趣旨のことを言っていますが、それらが菌類のようにつながって森が出来上がるのを待っている、というイメージです。