生成AI時代に、人間に求められる「センス」とは何か? 知的生産を続けるための条件を経営学者の楠木建氏と独立研究者で研究コンサルタントの山口周氏が明らかにする。話題の新刊『知的生産のセンス』(日経BP/日本経済新聞出版)より一部抜粋。
山口:高い知的生産性を継続的に維持する上で、ポイントになるのは「アウトプットの圧力が健全にかかっているかどうか」だと思います。
例えばお寿司屋さんを考えてみると「今日は予約が何組入っている」とか「店を何時に開ける」というのが決まっているからこそ、朝3時に起きて鮮魚市場へ仕入れに行くわけですよね。もし「今日はどうしようかな」「いい魚が入ったら店を開けようかな」と思っていたら、そんな過酷なディシプリン(規律)で働けないと思います。
楠木:一言で言えば、「アウトプットの規律がないところに、思考はない」ということですね。変換の先に自分以外の誰かに向けたアウトプットがあると思うからこそ、人間は考える。
山口:そう考えると、楠木先生のように「定期的に授業というアウトプットをやらなければならない」という状況に身を置くのは、健全な圧力がかかって非常に良いと思うんです。
楠木:とにかく講義はやらなければならない。毎回、ネットやAI からは出てこないような洞察を提供して、学生に満足してもらわなければならない。しかも、論理を理解してもらうためには、数多くの具体的な例を使って説明しなければならない。
価値のある講義をしようと思うと、良質な素材を常に仕入れておかなければならない。普段の生活や読書、人との会話の中でも、「自分の論理を説明するのに使える素材はないか」と、注意が強制されるんです。その結果、よい素材を仕入れて料理が進むという好循環が生まれます。
僕は講義というアウトプットの場がなくなるとダメになるような気がしています。大学の運営や管理の仕事をしたくないので、数年前に大学を辞めたのですが、フリーの立場でも講義は続けたいと希望していました。運よく僕の教えている講座に寄付をつけてくれる会社が見つかり、今は寄付講座の特任教授として講義を続けています。
山口:なるほど。アウトプットの場が、インプットに関する規律を生み出しているわけですね。