楠木:『ストーリーとしての競争戦略』には数多くの事例が入っています。これにしても大学で講義を続けていなければ絶対に仕入れることができなかった。講義という場で、膨大な素材を使って料理を出してみて、手応えがあったものを本に入れています。講義をやっていなければあの本は書けなかったと思います。

山口:楠木先生は、そうした講義などの場を通じて、自分の中に「健全な規律」がかかる仕組みを持っていらっしゃいますよね。それがネタを探したり、思考を深めたりするモチベーションの維持につながっている。

一方で僕の場合、定期的に人前で教える立場ではないので、ある意味ではまったく圧力がかかっていない状況なんです。探索のディシプリンみたいなものがあまりなくて、純粋に面白さで動いています。

楠木:それはそれでよい面があると思います。規律の一方で「ゆとり」が大切です。心や時間にゆとりがないと、深い思考はできない。あわてず騒がず、じっくり時間をかける。意識的にそういう時間を作るようにしているのですが、周さんはどうしていますか。

山口:僕はもともと怠惰な人間なので意識しないと逆に「ゆとりだらけ」になってしまうようなところもあります。ただありがたいことに最近はいろんなところからお仕事のご相談をいただくようになって、すべて受けているとキャパシティが埋まってしまう。

なので、ここ数年は週末以外に「週に二日」を目標に、当面の仕事とは関係のないリサーチや読書や考えごとに充てるようにしています。意識しているのは「細切れの時間にしない」ということですね。「今日は丸ごと、一日空いている」という日をできるだけつくるようにしています。

まあ実際にはいろんな雑務に侵食されてしまうことが多いのですが。ただ、こんなことができるようになったのは、本当にここ数年で、電通やコンサル時代はまったく余裕がなかったですね。

楠木:若い頃を思い返すと、やはりどこかせっかちでした。思考の「部品」や「素材」のようなものが出てくると、すぐにそれを料理して、お客さんのテーブルに出さなきゃいけないという焦りのようなものがありました。

山口:なるほど。当時はまだ「熟成」させることができなかったわけですね。

頭の片隅で「放置」
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