今週のピックアップ:「注文はない」vs「利上げへの道筋を」――日米の食い違いを「期待」と「苦悩」で説明する

米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の記事が話題を呼んでいる。同紙は9月1日、米ベッセント財務長官が片山さつき財務相と5月に会食した際、高市政権の経済運営への「不満をぶつけ(unloaded his frustration)」、円安への処方箋として日銀の利上げを挙げつつ、「なぜ日銀に独立性が与えられていないのか」と迫ったと報じた。これを受け、米側の日本への不満が浮き彫りになったとの印象が広がった。 

匿名の関係者への取材が記事の根拠で、「不満をぶつけた」というのはNYT側の描写だ。ただ、片山大臣は当時、ベッセント長官から利上げ支持の発言があったか記者に問われ、「言及は控える」として否定はしていなかった

米側が圧力を強めているという受け止めはNYTだけではない。ロイターは9月1日、米国債市場への影響を懸念するアメリカが、円安是正のための為替介入で協調して日本を助けたのは「タダではなく(wasn’t for nothing)」、見返りを求めてのことだと分析。英ガーディアン紙も、同様の構図で論じた。ロイターの別の論評は、こうした事態は日本の金融政策の独立性さえ損ないかねないと指摘している。 

米側のメッセージは、公にも強まっている。米財務省は8月30日のベッセント長官と植田日銀総裁との会談後、「円の大幅な過小評価」への日本の対応を強く支持すると表明。エリン・ブラウン米財務次官はNHKに、ベッセント氏が植田総裁と片山大臣の双方に「財政の持続可能性と利上げへの道筋」を市場に示す重要性を伝えたと説明した。 

9月1日にはベッセント氏本人も、G20財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で日本に「リフレ政策は止めるべき(they should (中略) stop the reflation)」と伝えたと明かし、一歩踏み込んだ形で政策対応を表立って求めた。 

それでも片山財務相は3日、米側から「特に注文はなかった」とし、NYTが報じた日銀の独立性をめぐるやり取りについても「問いただされたことはない」と否定した。 

こうして言った/言わない論争が日本のネット上でも過熱するなか、英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、9月4日、高市氏、ベッセント氏、そして市場の間に立つ片山氏の難しい立場を描いた。財政再建志向を持つ片山氏は、積極財政を標榜する高市氏との関係を「慎重に舵取りする(tread carefully)」必要に迫られているという。 

ベッセント氏のメッセージを国内政治や市場にどう橋渡しするか、苦悩の一端が先の片山氏の「否定」にも現れていると読めそうだ。 

もう1つ、食い違いを読む補助線になるのが、かねて独自の情報源でベッセント氏の高市首相への「激怒」などを発信してきた国際政治学者、小谷哲男氏の指摘だ。「ベッセント氏は決して直接日本への不満は表明しない。質問と期待を示すだけ」。直接であれ間接的であれ、どんな「期待」を示されたかが重要になるという見立てだ。 

米側が円安是正や、利上げなどを通じた金融正常化、財政の持続可能性という方向を、「期待」のシグナルで日本に強く求めていることは、公表された情報だけでもかなり明確だ。次の「答え合わせ」は早くも9月17~18日の日銀金融政策決定会合。年末には高市政権の27年度予算案の閣議決定も控える。ボールは高市政権と日銀の側にある、と言えそうだ。 

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