Michael S. Derby Howard Schneider
[ジャクソンホール(米ワイオミング州) 28日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のウォーシュ議長はこれまで、金融政策の見通しについて事前にヒントを与えることに否定的な姿勢を示してきた。しかしインフレの高止まりや今後どのような対応を取るのかについて市場の関心が高まる中で、28日にその姿勢をやや和らげたように見えた。
米西部ワイオミング州ジャクソンホールで開催されたカンザスシティー連銀主催の年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で初めて講演したウォーシュ氏は、市場参加者が金融政策の方向性をある程度読み取れるだけの情報を提供。その結果、市場では来月の利上げ観測が強まり、多くの関係者はこれを「FRB本来のコミュニケーションへの回帰」と受け止めた。
ウォーシュ氏はこの講演で「より静かなFRB、そしてより目的意識を持ったコミュニケーションを行うFRBの方が、目標達成に向けてより有効である」と改めて主張した。だが「われわれの判断基準をここに提示する。基調的な物価上昇率が、十分な速度を伴って明確に目標へ向かっていると確信できなければならない。そうでなければ、われわれにはまだやるべき仕事が残っている」と語った点が、注目すべき変化となった。
シティグループのグローバル・チーフエコノミスト、ネーサン・シーツ氏は、講演後の電話会見で「われわれは今、ウォーシュ氏が経済をどのように見ているのかを以前より理解できるようになった。これは非常に有益で建設的なことだ。経済に関する議長の見方を知ることができたのは大きな前進で、7月の記者会見後の状況と比べれば、意味のある進展と言える」と評価した。
FRBが政策金利を3.50-3.75%に据え置くことを決めた7月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、その後の会見でウォーシュ氏は金利見通しや政策判断の考え方についてほとんど言及しなかった。それを踏まえて市場では、ウォーシュ氏が7月の記者会見と同様の姿勢を繰り返すのか、それとも歴代FRB議長のように政策議論に踏み込んだ発言を始めるのかについて議論が続いていた。
今回の講演でもウォーシュ氏は両方の立場の間を取るような発言にとどめたが、市場が政策当局のメッセージとして受け取るには十分だったことから、9月15-16日に予定される次回FOMCで市場が見込む利上げ確率が大幅に切り上がった。
講演冒頭でウォーシュ氏は、自身の姿勢が大きく変わるわけではないことについて「これを概要と呼んでもいいし、道しるべと呼んでもいい。ただし『フォワードガイダンス(将来の政策指針)』とは呼ばないでほしい」と冗談交じりに話した。
それでも市場にとって、その後に示された内容は十分意味のあるものだった。具体的な利上げの約束こそ避けたものの、自身が経済状況にどう反応するかという「反応関数」の一端を示したことで、金利先物市場や債券市場、株式市場では金融引き締めの可能性を織り込む動きが広がった。
<行動で示せるか>
元FRB高官で現在は研究エコノミストを務めるロバート・テトロー氏は、ウォーシュ氏が「将来の金利見通しを示すことは市場価格をゆがめる」と考えている点に関してその懸念はやや行き過ぎだと指摘。一方で「ウォーシュ氏が現在の経済情勢をどのように認識しているのかを説明したことは非常に良かったし、その評価が極めてオーソドックスだったのも安心材料だった」と解説した。
ウォーシュ氏が議長に就任した5月以降、その慎重な発言姿勢によって生まれた情報の空白を埋めてきたのは、他のFRB高官たちだ。彼らの多くは、長期間にわたり物価上昇率がFRBの目標である2%を上回っている状況を踏まえ、追加利上げの可能性を積極的に示唆し、明確に利上げを支持する発言を行う当局者もいた。
もっとも多くの高官は、危機時代の遺物となったフォワードガイダンスはもはや必要ないというウォーシュ氏の考え方には賛同している。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は今月初め、ロイターのインタビューで「6月16-17日の会合でその慣行を終了させたのは、まさに正しい判断だった。不確実性が大きく、将来の方向性や政策運営について強い確信を持って語れる状況ではなかったからだ」と言い切った。
とはいえFRB高官らは自身の政策見解を公に示すことに消極的ではなく、むしろそれは説明責任を果たし、より良い政策運営につながるとみなす向きも少なくない。クリーブランド地区連銀のハマック総裁は、ウォーシュ氏の講演に先立つブルームバーグテレビのインタビューで「自分の考え方を積極的に伝えることは、この仕事において極めて重要だと考えている。企業や家計がより適切な意思決定を行えるよう、自分の見解を市場に示す必要がある」と説明した。
シカゴ地区連銀のグールズビー総裁も、27日に公開されたポッドキャストで、FRBの思考を国民に伝える重要性に言及。「経済をどうみているのか、あるいはどのように反応するのかについて説明しなければ、人々は好き勝手に解釈してしまう。(その結果)市場の変動はむしろ大きくなる可能性がある」と警告した。
これに対して現在ペンシルベニア大学ウォートン校の教授を務める元フィラデルフィア地区連銀総裁のパトリック・ハーカー氏は、ウォーシュ氏にとって重要なのは言葉だけでなく行動だと強調した。
その上で「物価上昇率が既に約6年間もFRB目標を上回っていることに触れながら「物価上昇を2%に戻すことがわれわれの使命だと言い続けながら、実際に必要な措置を取らないというわけにはいかない。昔から言われているように、行動は言葉よりはるかに雄弁だ」と述べた。