Yoshifumi Takemoto
[東京 28日 ロイター] - 中東情勢を受けて復活したガソリン補助金の「出口」が遠のいた。政府内ではガソリン価格の目安を1リットル当たり175円程度に引き上げ、補助を縮小する案が浮上していたが、複数の政府・与党関係者によると、物価高対策を優先する首相官邸の政治判断で見送られた。政府・与党内からは財政膨張の抑制が一段と難しくなるとの指摘や、補助金の長期化を懸念する声が上がっている。
長期間のガソリン補助金(燃料油等支援措置)は、本来市場で決まる価格を国費で抑え込む主要国では異例の政策だ。ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油価格高騰を受け、岸田文雄政権が2022年に導入。一時的に中断した期間を除き、資源エネルギー庁によると、25年度までに投入された予算は軽油や重油向けなどを含めて累計8兆円を超えた。
経済産業省や財務省では以前から「いつまでも続けられる政策ではない」との見方が根強く、現行の170円程度という価格目安を175円程度に引き上げる案は、事実上の出口戦略の第一歩と位置付けられていた。経産省幹部によると、175円に見直せば毎月約400億円の財政支出を抑制できるとの試算もあった。
しかし、高市早苗首相は25日、現在の価格目安を維持する方針を表明。記者団に対し「国民生活と経済活動への影響を最小限に抑える」と述べ、補助金継続のため予備費を活用して財源を積み増す考えも示した。
首相に近い政府関係者によると、170円据え置きは中東情勢の長期化を見据えた「首相の政治判断」だった。財務省幹部も「足元の原油価格高騰を踏まえるとやむを得ない判断だが、財務省も強く抵抗した形跡はない」と語り、官邸主導で決着したとの見方を示した。
原油価格は、米国とイランの停戦機運が高まった6月にいったん下落したものの、ホルムズ海峡封鎖リスクの長期化が意識される中で再び上昇基調にある。経済官庁の幹部は「原油価格や物価を巡る環境は6月から悪化している。今回の判断には、先行きに対する首相の覚悟が表れている」と指摘する。
一方で、内閣支持率の低下が判断を後押ししたとの見方も根強い。政府内で175円案が議論されていた7月下旬、経産省関係者はロイターの取材に対し、「支持率が下落傾向にあるなかで、首相がこのタイミングで採用するメリットは考えにくい」と話していた。
元自民党職員で政治評論家の田村重信氏は、「支持率低下に対する首相の危機感の表れだ」と指摘する。「国民の最大の関心事は物価高対策であり、その中でもガソリン価格は最も分かりやすい。財源面の課題はあるが、首相は無理をしてでも補助を維持する判断をしたのだろう」と分析する。
木原稔官房長官は28日午前の会見で「与野党から水準を引き上げてはどうか意見をいただいていたが、政府としては中東情勢が依然不透明で原油価格の予想が困難ななか、国民生活と経済活動への影響を最小限に抑えるため予備費を活用してガソリン価格を引き続き170円程度に抑制することとした」とコメントした。
6月に成立した26年度補正予算には、中東情勢対応などを目的とした2兆5000億円の予備費が計上されており、当面の財源には不足しない見通しだ。しかし、飲食料品への消費税減税、成長投資、防衛費増額など今後も歳出拡大圧力は強い。恒久財源が見通せないなか、国債市場では金利上昇も続いている。
高市首相は25日、「中東情勢の推移を見極めながら、価格目安や補助金そのものの終了について柔軟に検討する」と述べた。ただ、出口戦略を具体化するめどは立っていない。
自民党で経済政策に携わる衆院議員は「このままの規模で補助金を継続できるのか。もしかしたら財務省などにあまり相談せず決めているのではないか。であれば問題だ」と懸念を示す。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、「消費税減税のような巨額の政策と比べれば市場への影響は限定的だが、本来は価格上昇に応じて企業や家計が行動を変えるべきであり、補助金はその調整機能をゆがめる」と指摘。「脱炭素政策との整合性も問われている。消費者が高い原油価格に徐々に適応できるよう、補助金は段階的に縮小・廃止していくべきだ」と語る。
(竹本能文 編集:久保信博)