Miho Uranaka Anton Bridge
[東京 25日 ロイター] - 日本企業が収益のぶれを抑えるため、為替変動リスクへの対応を強めている。円安が定着する中、将来の為替取引のレートを事前に予約する為替予約(ヘッジ)の比率引き上げや長期化が進んでおり、政府・日銀の為替介入で急激に円高に振れる局面はヘッジを入れる好機ともなる。為替リスクへの対応は調達方法や商品構成の見直しにも広がり、企業の経営戦略にも影響を及ぼしている。
作業服大手ワークマンでは、日米両政府が協調介入を実施した7月31日に円相場が急反発した際、来期向けの為替予約であらかじめ設定していた指値注文が相次いで約定した。
「けっこう取れています」。同社の財務部IRグループの鈴木克利氏は同日の介入直後の状況をこう振り返る。商品部が採算を確保しやすい水準に指値注文を入れていたため、相場が円高方向に振れた局面で来期の商品仕入れに必要なドルを段階的に確保したという。
同社はプライベートブランド(PB)商品を中心に年約5億ドルを海外の取引先に支払う予定。ドル建てで直接調達する商品は前期分で仕入れ全体の約6割を占める。従来は仕入れ計画の5─6割程度にとどめていた為替予約も、急速な円安を経験した後に8─9割へ引き上げた。
2027年3月期分は約85%を1ドル=148円程度で予約済みで、想定為替レートは150円。現在は約1年先を見据え、来期第2・四半期に仕入れる商品の予約を進める。ただ、介入局面で予約が成立する取引でも、相場観に基づいて為替差益を狙っているわけではない。鈴木氏は「レートを固めることで利益の計算を固めにいっている」と説明。円相場のピークを狙うのではなく、商品開発時点で原価と利益を確定させることが重要だと話した。
<1年先から5─10年先へ、輸出企業にも変化>
為替ヘッジの割合を増やす動きはワークマンだけではない。金融機関が企業から受ける相談にも、円の先安観を前提とした変化が表れている。
大和証券で為替の取引に携わるプロダクト・マーケティング部の平山祥副部長によると、企業の為替ヘッジは従来、必要に応じて銀行で数カ月から1年程度の為替予約を行うケースが一般的だった。しかし、長期間にわたる円安を経験する中、数年先まで為替水準を固定したいとの相談が増えた。
長期ヘッジでは5─10年程度先まで為替レートを固定するケースもある。企業の間では、円相場がいずれ以前の水準へ戻ることを前提にするのではなく、さらなる円安にも耐えられる事業基盤の構築を重視する姿勢が強まっていると話す。
平山氏によると1ドル=160円台では「一段の円安が進んだ場合の事業への影響を懸念し、あらかじめ対応策を講じたいという問い合わせが増えた」という。
為替介入後は、急激な相場変動を受けて市場の方向感を見極めたいとして新たな取引を見送る企業も少なからずみられ、市場参加者の行動は一様ではない。それでもなお、日米の金融政策や金利動向への関心が引き続き高いことを踏まえると、「企業のヘッジニーズは当面底堅く推移する可能性がある」との見方を示した。
円安の恩恵を受けてきた輸出企業でも為替戦略を見直す動きが出ている。バンク・オブ・アメリカの長浜大和外国為替部長によると、1ドル=160円台ともなると輸出企業との間でドル・円相場がどの水準でピークを付けるのかという議論が増えていたため、介入で円が一時反転したことが円高進行に備えたドル売りヘッジを再び意識するきっかけになったという。
長浜氏は155円付近を分水嶺とみており、155円を割り込めば企業の想定為替レートに近づくケースが増え、輸出企業に「ヘッジを入れないといけないという動きが出てくる可能性がある」と指摘する。
<円安念頭に調達・商品戦略、金利高のヘッジ需要も>
企業の対応は金融取引だけにとどまらない。為替予約などのヘッジは相場変動による影響を一定期間抑えることはできても、円安によって海外からの調達コストが構造的に高くなれば、それだけでは対応しきれないためだ。
婦人服大手ハニーズホールディングスでは為替予約を数年先まで段階的に積み上げ仕入れコストを平準化しているが、同社の笹川知朗・経営企画室長は、円安が長期化する中では財務力が競争力を左右するとし、「アパレルは資本力のあるところが生き残る」と断じる。ここ数年は、原材料や物流コストの上昇を受けて商品価格を引き上げてきた。
価格転嫁が難しい企業は、商品そのものにも手を入れる。100円ショップ大手セリアでは、1ドル=160円程度の円安が定着すれば、半年から1年後に仕入れ価格へ影響が表れるという。商品仕様や品ぞろえ、パッケージの見直しなどで1円単位で原価上昇を抑える方針だ。
円安は海外での日本企業の購買力にも影響する。ドル建ての仕入れ価格が円換算で膨らみ、海外の買い手との価格競争で不利になりやすいためだ。スーパーマーケットを営むタカラ・エムシー(静岡県静岡市)の上野拓社長によると、海外の生産者からの直接調達を増やすなど調達方法を工夫しているが、一部の牛肉などで「今では中国やタイの買い手に競り負けている」という。
企業が管理を迫られている市場リスクは、為替に限らない。国内金利の上昇を受け、変動金利の借り入れを固定化する動きも広がる。
大和証券グループ本社の法人向け市場部門で企画を担当する菊池拓也グローバル・マーケッツ戦略企画部長は、ヘッジ提案について「企業の経営課題に関する対話のきっかけとなる側面がある」と指摘する。為替や金利リスクへの対応を支援する中で、事業承継やM&A(合併・買収)など幅広い経営課題に関する提案へと発展するケースもあるという。こうした需要の拡大を受け、体制の強化も進めている。
野村証券リスク・ソリューション部の岩崎紀子部長は、為替と金利の双方から収益が圧迫される中、「きちんとマネージしていかないと、業績への影響リスク」を抱えており、バランスシート全体でリスクを管理する必要性が高まっていると話す。同社では、日本各地でセミナーを開催するなどし、為替・金利リスクに対するソリューション提供を強化。企業のヘッジニーズが高まっていると語った。