Jonathan Saul

[ロンドン 5日 ロイター] - 黒海で船舶や港湾、輸出ターミナルを狙った攻撃が急増し、穀物や石油の世界的な供給に混乱が広がっている。黒海は穀物や原油、石油製品の重要な輸送ルートだけに、紛争激化に伴って戦略的物流の要衝を巡る新たな懸念要素になりつつある。

黒海はロシア、ウクライナのほか、ブルガリア、ジョージア、ルーマニア、トルコに面する海域。世界最大の小麦輸出国であるロシアと、主要農産物輸出国のウクライナはここ数週間、互いの農産物輸出施設や商船への攻撃を強化し、ウクライナはロシアの石油取引に関与するタンカーへの攻撃も拡大させている。

今回の緊張激化は、中東の主要海上輸送路の混乱に直面する商品市場にとって新たな圧力が加わった形だ。国連の政務平和事務局・平和事業局の欧州中央アジア統合地域局ディレクターを務める後藤佳世子氏は先週の安全保障理事会会合で「その影響は既に世界の農産物市場に表れている。この危険なエスカレーションの連鎖を続けさせてはならない」と警告した。

ウクライナ当局によると、7月には港内停泊中の船舶に対する攻撃が35件、海上での攻撃が22件発生し、港湾施設も67回攻撃を受けた。2025年通年で船舶が受けた攻撃件数は14件だった。

一方ロイターの集計では、ウクライナはロシアの石油取引に関与する数十隻のタンカーを標的にしたとみられる。ロシアの海運大手FESCOは今週、保有船1隻がウクライナのドローン(無人機)攻撃を受けたことを受け、黒海経由の新規貨物受注を停止した。

これに対してロシアはウクライナ南部オデーサ周辺の民間船舶と港湾インフラへの攻撃を強化している。オデーサはウクライナの農産物輸出の90%超を扱う拠点。ロシア、ウクライナ両国は軍事関連目標のみを攻撃していると主張している。

農産物は開戦から4年以上を経た現在もウクライナ最大の輸出収入源。代替輸送ルートの整備を進めているものの、ビソツキー農業相はロイターに、能力が本格稼働するのは8月末で、黒海港湾経由の通常輸送量の約半分しか扱えないとの見通しを示した。

7月10日以降アゾフ海の航行も制限され、主要穀物輸出港タマニの取扱量に影響が出ている。ノボロシスクやトゥアプセからの穀物輸出は継続しているが、以前より低い水準にとどまっている。

影響は石油輸出にも拡大。7月のウクライナによるタンカー攻撃で複数の船舶が損傷し、ノボロシスク港や、カザフスタン産原油の主要輸出拠点であるカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)ターミナルで積み込み作業が一時停止した。

船舶仲介会社BRSは今週の報告書で「CPCはカザフスタンの原油輸出の約80%を担う重要ルートであり、長期的な混乱は地域の供給にとって懸念材料となる」と指摘した。

英国の海事安全保障会社アンブリーは黒海の港に寄港する船舶に対し、航海ごとの脅威評価を徹底し、無人機攻撃時には乗組員を安全区域に待機させるよう勧告した。

国際運輸労連(ITF)のスティーブン・コットン書記長は「罪のない民間船員が犠牲になることは容認できない。軍事目標達成のための『付随的被害』とみなすのは非道徳的で極めて危険な前例だ」と批判した。

安全保障上のリスク拡大で輸送コストは上昇。市場関係者によると、黒海での原油タンカーの平均日額運賃は1週間前の20万ドル強から30万ドル超へ跳ね上がった。保険関係者の話では、黒海ターミナル寄港時の戦争保険料率は2週間前の船価の約1%から最大2%まで上がった。わずかな上昇でも1回の航海当たり数十万ドル規模の追加負担となる。

海運団体BIMCOのニールス・ラスムセン主席アナリストは「過去2週間に見られた低水準の輸送量が続けば、世界の原油タンカー輸送量は3%減少する可能性がある。既に厳しい市場環境にさらなる打撃となる」との見方を示した。

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