気候変動の深刻化、出口の見えない戦争、格差と分断の拡大、そしてAIの急速な進化──。世界の行方に対する不安が高まる一方で、巨大テック企業やその創業者たちは、かつてないほどの富と影響力を握っている。

技術の発展は、人々の暮らしをより豊かにするのか。それとも、ごく一部のエリートだけが生き残る「選民の時代」を招くのか。

経済思想家でマルクス研究者の斎藤幸平氏は、新著『人新世の黙示録』(集英社)で、気候崩壊による「恒常的な欠乏」の時代は、もはや避けることのできない段階に入ったと指摘する。

その先に待つのは、テクノロジーと権威主義が結び付いた「テクノファシズム」なのか。それとも、限られた資源を民主的に分かち合い、共に生き延びるための別の道なのか。

『人新世の資本論』(集英社)の刊行から約5年。斎藤氏に、世界の危機がどこまで進んだのか、テック富豪は何を目指しているのか、そして「暗黒社会主義」とは何かを聞いた。

本稿は、ニューズウィーク日本版の公式YouTubeチャンネルで公開した斎藤氏へのインタビュー動画を再構成したものです。

「未来についての考えが楽観的すぎた」

──コロナ禍に発売され、50万部を超えるヒットとなった『人新世の資本論』から約5年がたちました。この間、世界の危機はどれほど進んだと見ていますか。

もう、めちゃめちゃ進んで、手に負えないところまで来た。だから、もう手遅れです。

──手遅れですか。

そういうふうに考えないと、新しい社会も見えてこないだろうと思います。

そういう意味でいうと、2020年に出した『人新世の資本論』は、まだ未来についての考えが少し楽観的すぎたというか、甘かった。

当時はコロナ禍もあり、資本主義の格差や環境破壊、エッセンシャルワーカーの軽視が問題になりました。そこから、もっと持続可能で公正な社会をつくっていこうという雰囲気も生まれた。

SDGsもあり、この本も、そうしたものを「大衆のアヘン」だと批判しながら、その流れに乗って読まれた。脱成長という考え方も、ある程度広まったと思います。

でも、その後の状況を見ると、かなり悪いところに行ってしまった。そういう認識の下で、今回の『人新世の黙示録』を書かねばならなかったということです。

──当時、若い左派勢力を意味する「ジェネレーション・レフト」に期待を寄せていました。しかし今は、トランプ政権の復活をはじめ、各国で右派勢力が存在感を強めています。

ジェネレーション・レフトだけでなく、当時盛り上がっていた若者たちの気候変動運動や、もう少し全般的にリベラル、左派と呼ばれる勢力は、世界的にかなり没落気味です。

なぜかというと、リベラルや左派は、基本的に「未来は右肩上がりで、だんだん良くなっていく」という進歩主義的な思想に、いまだに取りつかれているからです。

20世紀の間は、そのストーリーにそれなりの実感がありました。経済や技術が発展し、自分は大学に行けなくても次の世代は大学に行ける。車やクーラー、テレビが手に入り、生活が便利になる。再分配を進めれば労働者の暮らしも良くなり、民主主義も広がっていく。

だけど、21世紀になった今、未来が良くなると思えるでしょうか。

AIによって人間の仕事がなくなるんじゃないか、なんなら人間が乗っ取られるんじゃないかという不安がある。戦争が増えれば経済も大変なことになるし、格差も広がる。そして気候変動は、10年後、20年後には明らかにもっと悪くなっている。

医療も崩壊し、人口も減り、高齢化が進む。生活が成り立たないんじゃないか、見捨てられるんじゃないかという不安が広がる。

そうすると、人々は「今の社会をつくってきたやつらが悪い」「エリートには任せていられない」と考える。社会を全部ひっくり返してくれそうなトランプのような人物やポピュリストに託して、「ガラガラポンしようぜ」という動きが力を持つ。

それが私の現状認識です。

「全員を救う」ことを捨てたテック富豪
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