Takahiko Wada Leika Kihara

[東京 30日 ロイター] - 物価研究の第一人者として知られる渡辺努東京大学名誉教授は、ロイターのインタビューに応じ、来年の春季労使交渉(春闘)で前年並みの賃上げを見通せる状況になれば、年内にも日銀が利上げスタンスを積極化し、市場が想定する半年に1回の利上げから四半期に1回程度の利上げに転換する可能性があると述べた。基調的な物価上昇率が2%に迫る中で、日銀は基調物価が2%を超えてしまうリスクに警戒を強めていると指摘した。

中東情勢の緊迫化で原油市況が高騰したことで、企業が相次いで値上げを表明。31日発表の7月東京都区部消費者物価指数(CPI)から伸び率が拡大し始めるとみられている。ただ、渡辺氏は、除く生鮮食品・エネルギー(コアコアCPI)の前年比のピークは来年3月で「3%を少し欠けるくらい」と予想。2022年以降、2度あった上昇率のピークには及ばないとみている。

渡辺氏は、警戒すべきは基調的な物価上昇率が「間違いなく上がってきている」ことで、基調物価は2%に「かなり近くなっている」と述べた。

日銀では基調物価が2%に迫る中で、従来のスタンスで利上げを継続していけば、基調物価が「2%を軽く上回ってしまう」として、「(政策の)レジームを変えなければいけないという意識を持っているのではないか」と話す。その根拠として、内田真一副総裁が6月の金融政策決定会合後の記者会見で、基調物価が「だんだんと2%に近づいてきている中で、上振れリスクというのを意識しなければならなくなってきている」とし、上振れリスクを「より重視していくべき状況が生まれてきている」と述べたことを挙げた。

渡辺氏は、これまでは基調的インフレが2%からまだ距離がある中で「インフレを育てるような、受動的な政策運営」だったが、2%にかなり接近したことで、インフレを抑えるための「能動的な政策運営」に転換する必要があると主張し、日銀もその必要性を強く感じているのではないかと指摘した。これまでの半年に1回程度の緩やかなペースで利上げを続けていけば、来年7月ごろには基調物価は2.2%程度に達するとの分析を示し、こうした「かなり重症」なインフレ状態になってしまうと、上振れた基調物価を2%に抑え込むために政策金利を2.5―3.0%程度まで急ピッチに利上げすることを迫られる恐れがあるという。そうした事態に陥ることを防ぐため、日銀は年内にも能動的な政策運営に切り替えるとのメッセージを出す可能性があるとした。

こうした政策スタンスの転換点として、渡辺氏は来年の春闘に注目する。賃上げがおおむね前年並みになりそうだとの見通しが立てば、年内にも「自信をもって能動的な政策姿勢に切り替えることになるだろう」と指摘。12月に大幅な利上げを実施したり、12月に利上げ後あまり間隔を空けずに再利上げする等、実際の行動で転換姿勢を示したり、利上げについての新しいルールを示す可能性があるという。新しいルールについては、これまでのように経済・物価の見通し実現の確度を重視する姿勢から、「基調物価が2%を超えていくリスクを強く意識して、それがだんだん高まれば直ちに行動する」に変更する可能性があると述べた。また、新しいルールの下では、利上げのペースは半年に1回から四半期に1回に短縮化するとみている。

日銀の利上げを巡る方針転換には高市政権の理解が重要になるが、基調物価を2%で安定した状態にするには、政府がデフレ脱却宣言を出した上で政府・日銀の共同声明を見直すなど、利上げけん制姿勢を変える必要があるとした。渡辺氏は、日銀が本当に物価抑制を実現できるのか、海外投資家の懐疑的な見方が円売りの一因になっている可能性があるとみる。円安が続く中、政府にもそうした認識が広まれば、いずれ姿勢の転換を考えるのではないかと話した。

*インタビューは29日に実施しました。

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