Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 24日 ロイター] - 高市早苗首相にとって初めての長期戦となる特別国会が大詰めを迎えている。会期中に浮き彫りになったのは、「市場の信認」を掲げつつ自身の政策に強くこだわる高市氏の姿勢だ。巨額の投資計画や予算編成改革への道筋も見えてきた。一方で、ある政府関係者は高市氏による財政指標の転換について「非常に不安だ」と危惧した。複数の政府与党関係者への取材から、今国会で生じた変化と課題を振り返る。
<大きく変わる財政運営>
会期を通じて高市氏が譲らなかったのは、「責任ある積極財政」という旗印だ。国会冒頭の施政方針演説でも、7月21日に閣議決定された政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)でも、財政運営目標の中核と位置付けたのは「国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下」だった。市場の信認を確保しつつ、従来の目標だった単年度のプライマリーバランス(PB)黒字化にとらわれない仕組みへの転換だ。
「強い経済の構築と財政の持続可能性を一体的に実現する取り組みをさらに進める中で、国民のみなさまや国内外の市場関係者に透明性高く、かつ一貫した説明をより丁寧に行うなど、コミュニケーションの強化を通じ、市場の信認を確保していく」。骨太の閣議決定にあたり、高市氏はこう強調した。
目玉政策である巨額の投資計画は、危機管理投資と成長投資として2040年度までに官民で累計370兆円超を想定。同年度に国内総生産(GDP)1100兆円に迫る経済成長を実現できるとの見通しを示し、経済官庁幹部は「目標達成は十分可能だ」と胸を張った。関係各省庁が予算要求上限(シーリング)を気にせずに必要な額を要求できる仕組みや、毎年秋に定例化していた大規模な経済対策に基づく補正予算編成からの脱却もうたった。
<人知を超えた指標>
ただ、財政運営の目標そのものを転換したことに、財政政策に精通する政府関係者はロイターの取材に、「いまでも非常に不安だ」と心情を吐露した。政府の財政政策によって一定のコントロールが可能だったPBに対し、債務残高対GDP比はどうしても金利などの市場動向に大きく依拠する「人知を超えた」指標になりかねないからだ。名目GDPの成長が過度なインフレを伴うものとなれば、比率自体は下がるものの国民生活の豊かさとはリンクしないとの指摘もある。
「財政規律の主体が市場によるコントロールへと移行しつつある。この数十年を振り返っても例のない変化だ」と、前出の関係者は続けた。市場の信認を確保することが財政運営の基本だとの考えを強調する一方で、「市場参加者は国民や政府のことを考えて行動しているわけではない。自らのポジションで利益を得るために動いている」とも述べた。「彼らに国民の生活を委ねることには危うさがある」と重ねて懸念を示した。
財政指標を転換する妥当性について、木原稔官房長官は24日午前の記者会見で、ロイターの質問に「債務残高対GDP比は政府が負う債務と、その返済の原資となる税収を生み出す元となる国の経済規模との関係を示す指標だ」と説明。PB、GDP、純利払いなどの影響を受けるものであり、主要国でも活用されている指標である点に言及し、「財政の持続可能性を見る上で有意義なものと考えている」と述べた。引き続き「責任ある積極財政」の考え方に基づき、市場動向や経済指標に十分目配りする方針を強調した上で、「成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、債務残高対GDP比を安定的に引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認も確保してまいりたい」とも語った。
<さらなる円安なら政局も>
自民党内でも今国会で示された高市氏の財政政策への評価は分かれる。
党の政策立案に関わる衆院議員は、「高市政権が誕生したときは財政政策で爆走するのではと心配していた」と明かす。ただし、今年度当初予算の公債依存度を24.2%の低水準に抑えたことや、補正予算に充てる特例公債(赤字国債)を前年度未発行分の範囲内に収めたことを念頭に、「首相は経済成長を重視しているだけで、実際はそんなに財政を吹かせていない。市場の信認を損なわないよう非常に気を付けている」と評価した。
一方、国会冒頭では1ドル=150円台半ばで推移していた円相場は、足元で164円に迫る水準まで下落している。同じく長期金利も上昇。2.1%台から始まった新発10年国債利回りは、7月に入って一時2.8%台を付けた。こうした状況に、自民の政務三役経験者は「円安の進行には党内にも相当不満がたまっている」。骨太から「財政健全化」の文字が削除された点などにも触れ、「首相がこれから政策を進める中で、さらに円安が進むだろう。1ドル=165円を突破するようなことになれば、この政権ではもたないという声が大きくなり、党内政局が始まる可能性もある」と不安視した。
今国会が閉会しても、高市氏は年末にかけて矢継ぎ早に政策判断を迫られる。「悲願」と公言する消費減税、来年度予算編成、防衛費の増額など、いずれも財源確保を含む高市氏の判断に市場が目を光らせているものばかりだ。
市場との距離感を見誤れば、長期金利のさらなる上昇や円の信認低下を招きかねない。政権の財政政策に関わる政府関係者は、高市氏の財政運営では、市場が急激に変動した際に国民生活が大きな「被害」を受ける可能性があると警鐘を鳴らした。「特に低所得者や零細事業者といった弱い立場の人に影響が及ぶ。それを防ぐために『平時の財政健全化』が必要だったのだが」
(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)