情報と引き換えに訴追を免れた者も?
もっとも政府には、責任追及への扉を一部閉ざしておきたい事情があるのかもしれない。アサド政権下で権力を握っていた人物の中には、情報提供と引き換えに訴追を免れる取引を結んだとみられる者もいる。その1人が、内戦中に政府を支援するため創設された民兵組織「国防軍」の元司令官ファディ・サクルだ。
アサド政権崩壊後、サクルは新たな暫定政府と協力し、旧政権支持者との仲介役を務めたとされる。一方で、多くのシリア人活動家や人権団体は、13年のタダモン虐殺を指揮した命令系統の一員だったとして彼を名指ししている。サクルは、司令官に就任したのは虐殺後だったとして、関与を否定している。
タダモンの住民によれば、殺害は政権崩壊まで続いていた。この地だけで10年以上にわたり、どれほど多くの遺体が埋められたのか──。シリアの全国行方不明者委員会は、その解明を進めている。米政府の戦争犯罪問題担当大使だったスティーブン・ラップによれば、ユセフ裁判が優先されたこともあり、現場の発掘はようやく始まったところだ。
ラップは先頃、事件の立件方法を学ぶ法学生向けのセミナーをダマスカス大学で開くため、シリアを訪れた。初期調査では、検問所で拘束された人々が最大200台分のバスでタダモンの穴へ運ばれ、処刑された可能性が示されていると言う。
「遺体は何層にも積み重ねられ、溝へ埋められた。その間にタイヤを挟んで火を放ったため、激しく損傷し腐敗が進んでいた」とラップは言う。
こうした恐ろしい光景は、アサド政権下のシリアでは決して珍しくなかった。研究者らは、最大規模の虐殺現場であるダマスカス北方カティファの旧軍事基地近くには、組織的に殺害された約10万人の遺骨が埋められた可能性があると推定している。
シリア身元確認センター(ダマスカス)を率いるアナス・フラニは英BBCに対し、犠牲者の身元確認には何年もかかるとの見通しを示した。理由はほかでもない、身元確認できないほど損傷した遺体があまりに多いためだ。
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