Danilo Masoni
[ミラノ 17日 ロイター] - 人工知能(AI)向け半導体メーカーの株価は放物線を描くような急騰を続けてきたが、足元では株価の割高感や巨額収入の持続性への懸念から勢いに陰りが見え始めている。一部の投資家は、1兆ドル近くに膨らんだAI向け設備投資ブームの減速を見据えて水面下でポジション調整を進めており、こうした動きで恩恵を受けるのは、巨額投資を負担してきたハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)ではないかとの見方が広がっている。
過去約2年間、市場ではこれとは逆の投資戦略が主流になっていた。投資家は、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット、メタがデータセンター整備に向けた設備投資を一段と加速させると見込み、半導体メーカーやインフラ関連企業の株を積極的に買い進めてきた。
しかし、こうした設備投資の伸びは今後鈍化する見通しだ。UBSは、ハイパースケーラー各社の設備投資が今年は前年比76%増の6730億ドルに達する一方、来年の伸び率は25%、2028年には6%まで鈍化すると予想している。
そういった見方を受け、一部のアクティブ運用者は既に半導体株の保有比率を引き下げる一方、これまで半導体株の急騰に出遅れてきたハイパースケーラーへの投資を増やし、ソフトウエア株や、AI導入の恩恵を受けると見込まれる金融・ヘルスケアなどの業種にも資金を振り向けている。
エドモン・ドゥ・ロスチャイルド・アセット・マネジメントでグローバル株式ポートフォリオマネジャーを務めるアレクシス・ボサール氏は「ハイパースケーラーが設備投資の拡大を止めれば、それは彼らにとっては間違いなく安心材料となる一方、半導体業界にはマイナスのシグナルになる」と指摘した。同氏は、半導体株は市場の期待に比べて割高になり過ぎたと判断し、既に保有比率を引き下げている。
主要半導体メーカー株で構成されるフィラデルフィア半導体指数(SOX指数)は、6月の高値から約18%下落したものの、過去1年間ではなお2倍余り上昇している。これに対し、均等加重のS&P500指数の上昇率は11%、AI関連銘柄の比重が小さいSTOXX欧州600指数は8%の上昇にとどまっている。
バンク・オブ・アメリカが7月に実施した機関投資家向けファンドマネジャー調査では、回答者の82%が半導体を「最も過熱したポジション(最も混み合った取引)」と位置付け、半導体セクターを空売りしているとの回答はゼロだった。
市場では、AI投資自体は堅調を維持しても、AIインフラ関連銘柄に織り込まれている高い成長期待を支えるほどのペースでは加速しなくなった場合、どのような投資戦略を取るべきかが新たな論点となっている。
ボサール氏はアマゾンへの投資比率を引き上げたほか、液冷技術、サイバーセキュリティー、選別した一部ソフトウエア企業を有望視。「今は半導体株を大幅にアンダーウエートにしている」という。
LFG+ZESTの最高投資責任者(CIO)、アルベルト・コンカ氏も、メモリー半導体や製造装置メーカーへの投資を大幅に減らす一方、ハイパースケーラーやヘルスケア株への投資を増やし、一部の半導体銘柄についてプットオプション(売る権利)も購入している。
ハイパースケーラー各社は当初、自前の資金でAI投資を賄ってきたが、最近では外部資金への依存を拡大。このため、いずれ資本市場からの資金調達環境が設備投資の伸びを制約するのではないかとの疑問も浮上している。
今年は米巨大テック企業による数十億ドル規模の社債発行を社債市場が吸収し、投資家も最近までは、こうした起債を積極的に消化していた。しかし、アポロのチーフエコノミスト、トルステン・スロック氏によると、投資家需要を示す指標である応札倍率は、2月の約5倍から7月には2倍を下回る水準まで低下している。
国際決済銀行(BIS)は6月、投資収益への期待が裏切られれば資金供給が急速に細り、設備投資ブームが長期低迷へ転じる可能性があると警告した。
コンカ氏は「キャッシュフローは設備投資によってほぼ使い果たされつつある」と指摘。ハイパースケーラーは今後、設備投資の伸びをより厳格に管理するとの見方を示した。
こうした状況を踏まえ、調査会社エンピリカル・リサーチは、設備投資の伸びが鈍化する一方で、半導体メーカーやその他AIインフラ企業には依然として高い売上高伸び率予想が織り込まれており、両者間のミスマッチが拡大していると指摘する。同社の分析では「ハイパースケーラーの設備投資見通しが再び上方修正されるか、あるいはサプライヤー各社の売上高の伸びが別の需要源によって支えられる必要がある」という。
さらに、米国内でデータセンター建設への地域住民の反対が強まっていることも、設備投資拡大の足かせとなりかねない。エンピリカル・リサーチの試算に基づくと、データセンター計画の約70%が何らかの反対運動に直面している。
ニューヨーク州は14日、AIブームを支える大規模データセンターが電力料金の上昇や水資源への負荷、地域社会への影響をもたらしているとの懸念を背景に、大規模な新規データセンター建設を1年間停止する措置を全米で初めて導入した。
もっとも、AIインフラに対する投資家の意欲は依然として強い。モーニングスターのデータでは、半導体関連ファンドには5月までに過去最高となる100億ドルの純資金流入があった。
フィデリティ・インベストメンツでグローバル・マクロ部門ディレクターを務めるユリアン・ティマー氏は、演算能力に対する需要は依然として旺盛で、最近の市場変動は一時的な「ふるい落とし」に過ぎないのではないかとの見方をしている。
ティマー氏は今回の調整局面は、1990年代後半のITバブル時に見られた定期的な株価調整に似ていると指摘する。当時も主力銘柄は上昇基調を再開する前に、20―30%規模の下落を何度も経験していた。「AIという主題は広く認知されており、現在も進行中だ。企業業績も依然としてこのトレンドを支えている」という。
もっともティマー氏は、投資家は分散投資を進めるべきだとも強調し、その理由としてAIインフラ構築の恩恵を受ける企業だけでなく、金融などAI活用の恩恵を受ける企業の重要性も今後高まる可能性があることに言及した。
同氏は「このブームに乗りたい。しかし同時に、ブームが行き過ぎだった場合に備えて自らを守りたい気持ちもある」と語った。