Andrew Silver Bhanvi Satija

[上海/ロンドン 16日 ロイター] - 江蘇恒瑞医薬や康希諾生物など、グローバル展開を目指す中国の大手製薬企業は、有望な新薬を海外で開発・販売するために必要な国際経験を持つ人材の確保に苦戦している。複数の業界幹部が明らかにした。

この問題は、中国が次世代医薬品の研究開発拠点として急速に成長する一方で、その成果を世界市場へ展開するための人材育成が追い付いていない現状を浮き彫りにしている。

医薬品業界の調査を手がける米アイキュービア(IQVIA)のデータによると、2025年に中国本土の製薬企業がスポンサーとなった臨床試験の88%は中国国内のみで実施されていた。一方、米国企業では国内のみで行われた試験は全体の5%にとどまり、中国企業が国際的な開発体制の構築において、依然として大きな課題を抱えていることが分かる。

特に近年、米国当局は中国のみで実施された臨床試験データに基づく薬剤承認に慎重な姿勢を示しており、米国の患者や医療現場をより適切に反映できる多地域共同試験の実施を求めるケースが増えている。

こうした中で恒瑞医薬の孫飄揚会長はロイターに「グローバルな多施設共同治験、海外での承認申請、商業化を進めるためには高度な専門人材が必要だが、国際開発や規制対応、異文化マネジメントの経験を持つ人材が不足している」と明かした。この人材不足は同社だけでなく、中国バイオ医薬品業界全体が直面する共通課題だとも述べた。

ワクチンメーカー康希諾生物の宇学峰・最高経営責任者(CEO)も、海外治験の運営、多国間での承認申請書類作成、国際マーケティングなどの分野で専門人材が不足していると話す。

「中国ではこれまで革新的な医薬品を世界市場へ展開する経験が限られており、グローバル治験のノウハウも十分に蓄積されてこなかった」と宇氏は語った。

<深刻な人材不足>

医薬品開発人材の獲得競争は世界的な課題であるものの、中国では特に深刻だというのが専門家の見方だ。

調査機関ICONは、アジア太平洋地域のバイオテクノロジー業界従事者は、世界平均と比べて約3倍も「人材不足が事業運営に影響している」と指摘する。

ICON中国事業のゼネラルマネジャー、ジョン・ヤオ氏は、インドは医薬品受託開発産業の発展、日本は成熟した製薬産業によって人材基盤を築いてきた一方、中国の業界はあまりにも急速に拡大したため、人材需要が供給を大きく上回っていると分析する。

実際、中国企業による臨床開発は過去20年で飛躍的に増加した。IQVIAによると、中国企業が主導する臨床試験は09年には世界全体のわずか2%だったが、25年に32%まで拡大している。

さらに欧米製薬大手の主力製品で特許切れが相次ぐ中、新たな治療薬への需要の高まりを背景に中国企業とのライセンス契約も急増している。調査会社ファームキューブのデータによれば、中華圏の企業が関与するライセンス契約総額は16年の3億1800万ドル(約516億3600万円)から25年には約1380億ドルに膨れ上がった。

米医療ソフトウエア企業フローレンス・ヘルスケアの最高臨床試験責任者を務めるキャサリン・グレガー氏は「中国企業は国際経験を持つ上級人材へのアクセスを拡大できなければ、グローバル商業化の段階で壁に突き当たる」と警告した。

<中国企業の取り組み>

恒瑞医薬の孫会長はこうした状況を受け、社内教育の充実とグローバル人材の積極採用を進める方針を示した。ただ同時に「国際的な視野と実務経験を持つ人材は世界的に争奪戦となっており、人件費も大幅に上昇している」とも述べた。

康希諾生物も規制対応や臨床開発の中核チームに対して海外アドバイザーから知見を学ばせることで能力向上を図っている。

がん・自己免疫疾患治療薬を手掛ける上海復宏漢霖は最新の年次報告書で、米国、欧州、日本、オーストラリアに臨床開発および薬事チームを設置し、自社主導で国際治験を運営できる体制を構築したと表明した。

<グローバル展開への課題>

中国製薬企業が海外進出を加速する裏側には、各国の規制当局がより多様な患者集団から得られた臨床データを重視する傾向がある。

米食品医薬品局(FDA)の元がん医薬品評価責任者リチャード・パズダー氏は、多地域共同試験では各国の患者間で有効性や安全性が比較できるため、データの質、民族間での差、医療慣行の違いによる影響を評価しやすくなると説明する。

「試験が中国のみで実施されている場合、その結果を他国の患者にどこまで適用できるのか疑問視する声が出ることは避けられない」とパズダー氏は述べた。

日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)も、多くの新薬審査において中国人患者だけのデータではなく、日本人患者の臨床データを求めていると説明している。

製薬業界専門の採用担当者らは、人材不足が中国企業の海外展開を頓挫させるほどではないものの、事業スピードの低下や外部パートナーへの依存増加につながっているとみている。

米人材紹介会社スミス・ハンリー・アソシエーツの医薬品業界専門リクルーター、ニハール・パリク氏は「現在見られるのは海外展開の失敗というよりも、実行速度の鈍化やパートナー依存の強まりだ」と分析する。また候補者の中には中国企業の海外戦略の持続性に不安を抱く人がいるほか、報酬面で欧米大手企業に見劣りするケースもあるという。

英国人材サービス大手ヘイズのライフサイエンス部門責任者ジェームズ・ニッセン氏は、中国の製薬企業が優秀な国際人材を獲得するためには、研究開発ビジョンや意思決定プロセス、長期的なグローバル戦略を明確に示す必要があると話す。

「その価値提案が明確であれば、中国バイオ医薬品企業は十分に競争力がある。しかし戦略がまだ発展途上の場合、採用には時間がかかる。人材がいないのではなく、優秀な人材ほど慎重に企業を選んでいるからだ」とニッセン氏は語った。

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